がん治療最前線/栄養療法によるがん治療の実際
 栄養医学研究所所長 佐藤章夫

世界規模で広がる統合医療の波。その動きは、がん治療の現場が中心となっている。米国の発がん因子に関する統計によると、環境性発がん因子が男女とも80%を占めており、中でも食物の占める割合が最も大きい。このため米国の医療機関では、メガビタミン療法等の代替医療が盛んに行われている。がん治療を巡る米国の動向と遺伝子診断等の検診動向をまとめた。


 養療法による乳がん治療の新たなアプローチ

サプリメントを日常的に摂取しているか否かに関わらず、多くの女性は乳がんに対する恐怖感を抱いており、できる限りその危険から遠ざかることを考えている。この20年程の間に、多くの研究者によって乳がん発生部位とその危険率がエストロゲンホルモン代謝のアンバランスと深い関係があることが証明されてきました。このエストロゲン代謝は、女性の遺伝的生い立ち、生活様式、そして摂取する食事の内容によって大きく異なります。エストロゲンの作用を考えた時、それが効果あるものとして作用するのか、害となるかもまた遺伝的生い立ち、生活様式、そして摂取する食事の内容に依存します。

西洋現代医学による乳がん治療のアプローチでは、エストロゲンとプロゲステロンの受容体分析をはじめとし、遺伝子分析による診断、治療が一般的に進められていますが、最近、米国における栄養療法による乳がん治療の新たなアプローチが開始されました。これは栄養素の吸収と代謝に着目したもので、尿中のエストロゲンの代謝経路を分析することによって、乳がんを含むエストロゲン依存性を栄養素で最小限に食い止める治療法です。

 エストロンが乳がんの危険性を予測

エストロゲンホルモンには、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3つの分画があります。この中でエストロンは代謝の過程で、2-hydroxylated、 4-hydroxylated、16α-hydroxylatedの形に代謝されます。これらの水酸化代謝過程には胸部、腎臓、肝臓の各組織細胞が関与します。最近の研究によって、これら3つの水酸化代謝産物の中でも2-hydroxylatedエストロンと16α-hydroxylatedエストロンが乳がんの危険性を予測するマーカーになる可能性が示唆されています。

2-hydroxylatedエストロンは、エストロゲン誘発性のがんを抑制する作用があることがわかっており、自然発生的な抗エストロゲン作用が起きているか、または選択的エストロゲン受容体調整機能(SERM)によるものではないかと考えられます。16α-hydroxylatedエストロンについては、多くの実証研究が行われており、乳がん患者では16α-hydroxylatedエストロンが高値になることがわかっています。

代謝産物としての16α-hydroxylatedエストロンの量は、例えばシメチジン(タガメット)などの薬剤にも反応して増大します。これら2つの代謝産物である2-hydroxylatedエストロンと16α-hydroxylatedエストロンの量的比率(2/16α)を分析することによって乳がんの危険性を予測したうえで、栄養素を用いた治療が試みられ始めており、エストロゲン誘発性のがんを抑制する作用を持つ2-hydroxylatedエストロンの代謝量を増加させる治療法です。この治療では、生活環境、習慣を変えることが重要になりますが、2-hydroxylatedエストロンの代謝量を増加させ、16α-hydroxylatedエストロンの代謝量を抑制させる栄養素の補給を強化することからスタートします。この治療法における代表的な栄養処方としては、フラックス油、イソフラボン、オメガ3及びオメガ6脂肪酸が豊富な魚油、高蛋白食材が用いられますが、飽和脂肪が多い食品の場合は、逆に2-hydroxylatedエストロンの代謝を抑制します。

 栄養医学的治療のアプローチに期待

米国フロリダで行われた臨床例によると、37〜42歳の更年期前症候群で乳がんの疑いで治療中の女性60人の尿中検査を行った結果、良性腫瘍であった女性3人では2/16α比率が低く、乳がんと診断された57人の女性の約68%で2/16α比率が高い結果となりました。また、28〜40歳の女性46人に2/16α検査を行い、比率が高くでた女性22人に対し、フラックス油、イソフラボン、ビタミンB1、B3、B6、B12、葉酸、ビタミンC、マグネシウム、亜鉛、セレン、スピルリナを1年間摂取させた結果、引き続き2/16α比率が高かった症例は2人だけでした。

この22人に与えられた栄養処方のうち、ビタミンB1、B3、B6、B12、葉酸、ビタミンC、マグネシウム、亜鉛に関しては、最初の1カ月は1週間に1回の静脈投与、その後3週間に1回の静脈投与が1年間継続されています。

乳がん発生の原因は、これらのホルモン代謝産物だけでなく、遺伝的要素によることも証明されていますが、「今そこにある危機を解決する」現代西洋医学的治療ではなく、「今後起こり得る危機を未然に防ぐ」栄養医学的治療のアプローチによってがんの危険を防ぐ試みには、国際的にも大きな期待が寄せられています。

(Medical Nutrition 32号より)


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