ガン研究の成果と現状を検証
8月上旬、文部科学省と厚生労働省の合同の私的懇談会として、「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」の初会合が行われた。これまで日本で行われてきたがん研究の総括と、今後のがん研究のあり方について突っ込んだ議論が交わされていくことになるが、ここでは廣橋説雄国立がんセンター研究所所長のトピックス報告を中心にレポートする。
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“ガン研究”はどこまで成果があがっているのか |
昭和56年以降、がんは日本人の死因の第1位を占め、現在も増加の一途をたどっている。昭和59年の対がん10ヵ年総合戦略に続き、その後の第2次がん戦略として平成6年から「がん克服新10ヵ年総合戦略」が進められ、各省横断的かつ戦略的に充実が図られてきた。その成果は確かに大きなものであったが、一方でまだまだがんについては残されている課題も多い。このような点から、文部科学省研究振興局長と厚生労働省大臣官房技術総括審議官の合同の私的な懇談会としてこの有識者会議は設置された経緯をもっている。年度末に中間報告をまとめることを目標に、これまでのがん研究の総括と、今後のがん研究のあり方について検討を重ねていくことになる。
検討事項は、国内外のがん研究の成果と現状についてで「どこまで成果が上がっているのか、あるいは何がこれから期待されるのか」が論点となる。これを軸に今後のがん研究のあり方を追求していくことになりそうだ。
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厚生労働省がん研究の成果、国立がんセンタ・廣橋所長の報告 |
今回の初会合には説明者として、国立がんセンター・廣橋説雄研究所長、東京大学・鶴尾隆分子細胞生物学研究所所長、放射線医学総合研究所・辻井博彦病院長らが出席。この中で、厚労省が推進するがん克服新10ヵ年戦略プロジェクト研究31課題、がん研究助成金約100の研究課題の概要について廣橋所長がトピックスを報告している。
がん克服新1ヵ年戦略の研究分野は、発がん、転移・浸潤、がん体質と免疫、がん予防、新しい診断技術の開発、新しい治療法の開発、QOLに関する研究―の7分野。これら分野別の最先端の研究を進めて新機軸を打ち立てることが主たる目的だ。
これまでに、がんの本体解明として(1)がんの悪性化を引き起こす増幅DNA断片の構造の解明、(2)未知の遺伝子異常の検出・同定法、新規遺伝子の機能解析法の開発、新しい診断法・治療法の開発として、(3)肺小細胞がんの血清診断薬の開発、(4)ヘリカルCTの開発による早期肺がんの診断率の向上、そしてすべてのがんの治癒率の向上――等とさまざまな成果をあげてきている。
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ラクトフェリンについての研究 |
がん細胞は細胞同士が結びつかず、動き回って浸潤し、離れた臓器に転移する。この細胞同士を結び付けているカドヘリンという接着分子がどのように不活化されるかという仕組みについての研究が進み、カドヘリンの遺伝子突然変異がスキルス胃がんの要因になっていることが解明されている。
また、発がん物質、放射線などは細胞の中で酸素ラジカル、物質を酸化する働きをする酸素ラジカルを生成することが最終的にDNAに修飾を与えて突然変異につながる仕組みとなっている。そしてこの酸素ラジカルがDNAに働いてグアニンにOHを付け8ハイドロキシグアニンをつくるということもわかってきている。
逆に環境中、あるいは食品中にがんを抑制するものもあるであろうという考えから、発がん抑制物質についての研究も進められている。同プロジェクトでは抗酸化剤などの研究も進めているが、最近は初乳に含まれるラクトフェリンのがん発生抑制やC型肝炎ウィルスの増殖抑制などにも効果があるとされ臨床試験に進んでいるという。
ヘリコバクターピロリと胃がんの関連性についても研究が進んでいる。ヘリコバクターピロリの感染はがんばかりではなく、胃の悪性リンパ腫の発生にも関与することが判明しており、除菌で悪性リンパ腫を寛解できるという報告もある。この方法で51例の患者に実施したところ、73%で実際に奏効し、胃の悪性リンパ腫(MALT)がヘリコバクターピロリの除菌で治すことができることが確認された。
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基礎研究を最大限臨床に |
一方で、画像診断も着実に進歩し大きな成果をあげている。CTをらせん状に回転させながら撮影するヘリカルCTの開発にも成功し、さらに今後は立体画像による診断や画像解析による自動診断へと研究も移行していると廣橋所長は話している。
しかし、問題も少なからず抱えているようだ。国立がんセンター・寺田雅昭総長は、「研究者が主導する治験、薬の併用の仕方、手術技法などに対する国の研究費のサポートが大変少なく、インフラも整備されていない。がんの先端医療の研究と同時に、国民が同じスタンダードのがん医療を受けるためには、がん医療の均霑化が大切で、一方で標準的な診療の確立と、それをどういう形で普及するかということも重要となってくる」と指摘した。
同センター廣橋所長も、「基礎で得られた研究成果を臨床の場につなげるという意味では日本は弱いと思う。これからのがん研究に基礎研究の成果を臨床に応用できる仕組みを作っていかなくてはいけない」と話し、これまで培ってきたがん研究・治療の成果をいかに臨床の場に活かしていくかが今後カギとなる。
(Medical Nutrition 32号より)
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