キノコ系に含まれるβ-グルカンが危険!は本当か?その真偽を探る
第60回日本癌学会総会で、大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科の藤本二郎氏はレンチナンによる心筋障害促進を指摘した。問題となったのは「キノコ系健食もレンチナンで示された心筋障害の可能性がある」と結論したことだ。発表に先がけ、一般紙で「キノコ系健食で心臓障害」と報じられたため、メーカーには問い合わせが殺到。本当に「キノコ系健食に含まれるβ-グルカンは危険」なのか、医師・薬剤師・メーカー、それぞれの立場から意見を聞いてみた。
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レンチナンと健食β-グルカンは別物 |
「医薬品のレンチナン(β-グルカン)と健食に含まれるβ-グルカンは別物と考えるべきだ。抽出方法も製造工程もすべて異なる。つまり、成分、濃度及び投与方法の異なる試験結果で導かれた結論を健食のβ-グルカンにあてはめることは不可能だ」と、健食メーカー学術担当者のひとりは指摘する。また、別のメーカー担当者(薬剤師)も「レンチナンはかなり高濃度のβ-グルカンと思われる。健食のシイタケ抽出エキスとは全く異なるものとして扱うべきだ」と話している。
レンチナンは、シイタケから取り出した抽出エキスを分離・精製し、β-(1→3)結合を主鎖とする高分子グルカンを単離したもので、1週間に2mg静注で投与する(藤本氏の試験では2週間に1回1mgまたは4mg/kgをマウスに腹腔内投与)。一方、キノコ系健食中のβ-グルカンは1→3結合だけでなく1→6結合も含まれ、β-グルカンの量は製品によって大きく異なる。
医学博士であり、長年製薬メーカーで医薬品の開発に携わってきたアサマ化成の塩野谷博氏は「キノコ健食には様々な分子量のβ-グルカンが含まれている。経口摂取では高分子のβ-グルカンは吸収されず、低分子のみ吸収され、尿から排泄される。当然、注射では成分がすべて体内に入る」と説明する。しかし、β-グルカンに関してはその吸収を調べる方法はいまだ確立されていず、明確なデータが示されていない。
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心筋障害は高分子グルカンの腹腔投与が原因か |
塩野谷氏は、マウスに見られた心筋障害や腹水は高分子成分を注射したことによる生体の炎症反応と捉えている。高分子のものを生体は異物として認識するからだ。「マウスもヒトもβ-グルカンを分解する酵素を持たない。注射された高分子グルカンは数カ月間、高分子のまま残存し、炎症反応が引き起こされる。慢性炎症の状態では、ストレスで生存期間が短縮して当然」とし、「ただし、経口で高分子のものを摂取しても吸収されないので炎症反応は現れない。よって、キノコ系健食の摂取から心筋障害が起こるとは考えられない」と主張する。
前述の健食メーカー薬剤師は「注射で体内に入った成分は肝臓での代謝を受けないため、毒性がそのまま残る。心臓のように多数の血管が存在する臓器がダメージを受ける」という見解だ。また、藤本氏がキノコを食事として食べる分には問題ないとしている点に対し、「健食に含まれるβ-グルカンも食事の範囲内。薬膳のキノコの濃縮スープに含まれるβ-グルカン量と同じ程度だ」としている。
塩野谷氏は「健食メーカー側も正しいデータを消費者に示す義務がある。ヒトが使うのと同じ条件で有用性や毒性を確認してほしい。もし、臨床試験を行うのなら、健食メーカーが加盟する協会が国民の健康のために健食の機能性を科学的に裏付けたい旨を述べて、政府に予算を申請すべきではないか」と、健食の安全性及び有効性を科学的に示す必要性を強調した。
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藤本氏の発表概要
目的:マウスの発がんに対しレンチナンが抑制的に働くかどうか、レンチナンが他の臓器障害を引き起こすかどうかを検討。 方法:生後6週齢マウスを(1)対照群12例、(2)シスプラチン2mg/kg投与群12例、(3)レンチナン1mg/kg投与群14例、(4)レンチナン4mg/kg投与群14例、(5)シスプラチン2mg/kg+レンチナン1mg/kg併用群15例、(6)シスプラチン2mg/kg+レンチナン4mg/kg併用群15例の計6群に分類。(1)(2)(3)は2週間ごと、(5)(6)は隔週交互に薬剤を腹腔内投与。 結果:グループ全体の平均生存日数は対照群817.3日に対し、(6)は254.1日、(4)は308.9日で有意に減少(p〈0.001〉。心筋の線維化は(4)79%、(6)87%(対照群0%)にみられた。 |
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「健食」を用いた試験で安全性・有効性を示す必要がある
 東京医科大学薬理学講座教授
松宮輝彦氏
この試験は腹腔内投与であり、どのくらいのレンチナンの投与量から心筋障害を起こすかを厳密に調べていないので、結論は出せないはずだ。藤本氏の指摘は「摂り過ぎに注意」という意味に捉えている。確かに健食を多量摂取すると、なんらかの反応が起こる可能性はある。規定量を守っていれば問題はない。今後、健食も厳密な試験を行い、安全性や有効性、適正量を調べる必要がある。
キノコ系健食に含まれる1成分について、その効果や吸収を明言することは難しい。全体的な効果であることが多いからだ。漢方薬も1成分を取り出して投与しても効果は出ない。様々な成分の相互作用によるもので、健食も同じことがいえるのではないか。
 東京大学医学部生体防御機能学 助教授
丁 宗鐵氏
藤本氏の試験で示されたレンチナンによる副作用を、キノコ系健食にあてはめることは間違いとはいえない。健食メーカーはレンチナンで証明されている抗腫瘍効果を引き合いに出して、キノコ系健食の有効性を消費者に訴えている。今回のような否定的な結果のみ無視できるだろうか。キノコ系健康食品中にβ-グルカンが含まれている以上、投与経路の違いや投与量の問題を指摘する前に、藤本氏の指摘を受け止めなければならない。
藤本氏に反論を唱えるなら、個々の製品を用いて試験を行い、安全性を証明するか、もしくは、キノコ系健康食品に含まれるβ-グルカンが一切吸収されないことを証明するしかないだろう。
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(Medical Nutrition 32号より)
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