対談 健康維持・予防に役立つ「メディカル・ハーブ」とは
 赤坂溜池クリニック院長 降矢英成氏
 グリーンフラスコ代表 薬剤師 林真一郎氏

ヨーロッパやアメリカ合衆国では一般的ですが、医療の中にハーブを取り入れた全国でも珍しい医療機関が東京・赤坂にあります。心療内科医の降矢英成院長とハーブショップ「グリーンフラスコ」代表でもある林真一郎薬剤師によって、日本でも“植物療法がすでに行われています。植物療法とは何か、また植物療法で利用されるメディカル・ハーブは実際にはどのように利用されているのかを、お二人に伺いました。

降矢英成氏 林真一郎氏


 ハーブに関心のある人はセルフケアにも関心

―― 医療にも利用されるようになった「メディカル・ハーブ」とは、どのようなものですか?
林真一郎先生(以下敬称略)
簡単にいうと食べたり、飲んだりすることによってその人の健康に貢献するハーブのことです。“ハーブという言葉は20年ほど前から日本にもあって、非常に浸透しています。しかし、今まではハーブというと、ガーデニングやアロマセラピーといったイメージが強く、ヨーロッパで伝統的に行われてきた“植物療法という利用方法については、ほとんど知られていませんでした。それがようやく最近になって“ハーブは健康管理にも使えるんだという認識に変わってきたところです。日本でも、健康に役立つ「メディカル・ハーブ」の機能が着目され、大手企業が製品を発売するようになりましたから、目に付く機会も増えていますし、メディカル・ハーブについて勉強する人も増えています。
 
降矢英成先生(以下敬称略)
クスリではない植物をハーブと呼ぶことが多いのですが、実は“漢方薬に使われている植物も中国のハーブです。しかし漢方は、日本ではクスリです。一般の方も薬局で買うこともできますが、漢方はハーブに比べて形やニオイがいかにもクスリらしい。味もせめて不味くないという程度で、おいしくはない。一方、ハーブ(ティー)は香りや色がよいものが多く、美味しいものもあります。そういうところが、一般の方にも受け入れやすく、食品の延長としても摂りやすい。薬局でなくても、食品店やハーブショップで、手に入れやすいことも漢方との違いです。セルフケアという医療の流れもあって、クスリに頼らなくても手に入るという手軽さは、歓迎すべきです。
 
実際、私のクリニックにはハーブに関心の高い方がよくいらっしゃいます。全体から見れば、植物療法を求めている患者さんは、まだまだ少ないでしょうが、確実に増えていると実感しています。
 
また、ハーブに関心を持っている方は、セルフケアの意識が強く、自立している方が多いという印象です。医者まかせの人よりも“自分で何かできるものはないかと積極的に医療に参加していこうとする姿勢を感じます。
 

―― 今年は全国的に非常に暑い日が続いていますが、夏特有の悩みに手軽に利用できるハーブはありますか?
降矢
夏に見られる代表的な症状や悩みでは夏バテ、冷房病、自律神経失調症ですね。「暑くて眠れない」というのも、よく聞く悩みです。胃腸不良も多いですね。
 
結局、“夏バテというのは自然環境の変化が体内環境とミスマッチして起きている象徴的な症状ではないでしょうか。また、女性の“冷房病も深刻です。冷房病は、クーラーの利きすぎで、更年期ではなくても自律神経に支障をきたし、更年期のような状態になったりします。身体が春夏秋冬といった流れについていけないのに、クーラーのような人工的な環境要因も加わりますから、原因は複雑化しています。“不眠は夏だけではありませんが、やはり原因が複雑化していて、年間を通してよく聞く悩みです。
 
ハーブ療法は、自然環境の変化にうまく対応していくために発展して来たという背景がありますから、こうした夏バテをはじめとする季節ごとに特有の症状や悩みへの対応を得意としています。例えば、ニガ味の強いアーティチョークは、有効成分シナリンの働きだけでなくニガ味のある味覚などによって消化器系を活性化し、トータルに夏バテの症状を解消します。夏バテによる食欲不振になって動かなくなると、ますます食欲がなくなるという悪循環が生じます。同じようにダンディーライオンも、味や有効成分がトータルに作用します。
 生活を変える手段になる

―― 実際の医療のなかでは、どのような症状にメディカル・ハーブが利用されているのでしょうか?
降矢
基本的には負担の少ない保険で治療してあげたいので、症状が重かったり、早く効かせたいときには、西洋薬を使います。それほど重症ではなくて、徐々に症状を改善していきたい場合には、漢方です。もちろん漢方薬と西洋薬を併用することもあります。保険の範囲でできない場合や患者さんの方から「漢方薬もクスリだからイヤだ」という場合にハーブを使っています。
 
例えば“うつに使うセント・ジョーンズ・ワートは、「漢方と似ていて安心」と患者さんの評判もよく、症状の改善も現れます。自費で購入しても安く、余り患者さんの負担にもならないので、うつの人に対する最初の選択として、私はセント・ジョーンズ・ワートをよく使います。 “不安の場合には、柴胡加竜骨牡蛎湯や桂枝加竜骨牡蛎湯といった漢方が成績もよいのでよく使います。ただし、漢方のニガ味の問題で患者さんが受けつけない場合、パッションフラワーやバレリアン、カモミールなどの鎮静作用のあるハーブを使います。
 
もちろん、うつや不安の治療には、西洋薬という強力な武器もありますから、患者さんと好き嫌いなどをよく相談し、症状を見ながら治療方針を決めています。ハーブの場合、何種類かを紹介して、その中から患者さん自身が自分に合ったものを選べるという点も良いところです。
 
漢方とハーブでは取り扱いの自由度が違います。漢方の場合は医師や薬剤師が管理しないと危ないことがありますが、ハーブの場合「私はこのハーブが飲みたい」「このハーブが好き」ということで選ぶこともできます。医師や薬剤師の適切な指導のもとで利用すれば「医療に自分も参加している」という意識も生まれます。
 
降矢
睡眠障害、不眠に関して、ハーブで手応えを感じていますが、西洋薬に勝るかどうかとなると何とも言えません。しかし、一般に市販されていて入手しやすいということでは、セルフケアに適していると言えるでしょう。
 
不眠に加えて、生理痛などの婦人科領域も精神作用が影響しやすい症状が多く、ハーブが得意とする領域です。実際に、心療内科や婦人科、産科を専門とする多くの医師がメディカル・ハーブに関心を持っています。
 
降矢
私のクリニックでは、うつ、不安、不眠といった領域で実際に使っているわけですから、他科でもそれぞれハーブが得意とする領域があると思います。ただし糖尿病や高血圧症、腎臓病などの生活習慣病の治療法としては、まだ何とも言えないのが現状で、むしろ予防的に使う方法を考えていく必要があるでしょう。あまり医療や治療ということにこだわらず、セルフケアとしての利用法が普及していくことに期待しています。
 
そういう風に考えるとハーブはかなり幅広い可能性を秘めていると感じます。生活を変えていく一つのツールとして利用できることも、ハーブの良いところです。普通の飲み物として生活に取り入れられますから、手軽に利用してもらうのが一番です。
 
降矢
健康維持や疾病予防は医療の範囲内でもあるわけです。そういう意味でも、ハーブには期待できます。「がんが治る」というものではありませんが、ハーブが予防や健康に役立つことは確かです。さらに心身症や婦人疾患の問題に対して確実な効果があり、廉価で継続できるという利点もあります。
 ハーブと一緒に生活指導も!

―― ハーブはドラッグストアをはじめどこでも手に入りやすくなりましたが、利用する際に注意することはありますか?
降矢
単純に「ハーブを飲めば治る」ということだけでは、症状や悩みの解決になりません。ハーブを中心にしながら相談や指導で適切な方向に導くことも大切です。「ストレスケアにはどのハーブがいいですか」とよく聞かれますが、漢方やハーブだけで考えていては不十分で、ストレスそのものについても勉強しないと相談は受けられません。ハーブを扱う人が、人間全体を指導できるような勉強をすることが不可欠になります。
 
植物療法が盛んなイギリスでも、どのハーブが何に効くというだけでなく、必ず食事指導を土台にして運動指導もし、生活全般を指導しています。それは、相談や指導がないとハーブの力が十分に発揮されないからです。また、ハーブだけでなく、クスリとの併用も指導することがあります。
 
降矢
去年、セント・ジョーンズ・ワートと経口避妊薬などのクスリとの相互作用の通知が厚生省(現厚生労働省)から出て、問題になりました。そういうことも含めて、クスリのことや健康のこととなると、薬剤師さんはよく知っているわけですから、薬剤師さんがメディカル・ハーブの普及に最も適した人材だと言えるでしょう。
 
我々のような“かかりつけ的なクリニックは、ハーブをはじめ「個々の患者の多種多様な希望に対応していけるか」ということがますます重要になっています。それと同じで、薬局もモノを売っているだけではなくて、“相談に対応できないとダメなのではないでしょうか。ハーブは、相談の材料として橋渡しになるでしょうし、よい医療、よい薬局の試金石になるのではないでしょうか。
 
はっきり言って、一つひとつ相談に応えていくというのは、結構面倒くさくもあります(笑)。しかし、相談に応じるか応じないかというのは、ポリシーの問題でもありますから…。
 
一部上場の企業が新規事業としてハーブを取り上げはじめたのは、それだけの市場が見込まれているということでしょう。ハーブに関する法律が緩和されてきたり、健康保険に対する危機感が高まってきたりと、ハーブが急速に普及する土壌はできあがりつつあります。これは、何十年に一度のタイミングだと確信しています。
 
にもかかわらず、売り場の商品の回転率を重視する余り、軌道に乗る前にハーブの扱いをやめてしまう薬局薬店があるようです。医療全体が変わっていくなかにあって、ハーブが拡がるチャンスなのに、それを途中で止めてしまうのはもったいない(笑)。「ハーブが医療やセルフケアの手段である」といったもう一つ上のレベルでの捉え方が足りない気がします。買う側が勉強しているだけに、ハーブ製品を販売する側も、もう少し腰を据えて勉強して欲しいですね。

プロフィール

降矢 英成(ふるや えいせい)
東京医科大学卒業。同大第3内科、LCCストレス医学研究所心療内科、帯津三敬病院などを経て、97年8月に赤坂溜池クリニックを開設。日本心身医学会認定医。日本東洋医学会専門医。日本ホリスティック医学協会常任理事。メディカルハーブ広報センター常任理事。共著「ホリスティック医学の治癒力」(法研)。
 
林 真一郎(はやし しんいちろう)
東邦大学薬学部薬学科卒業。薬剤師、臨床検査技師、グリーンフラスコ代表。メディカルハーブ広報センター専務理事。薬剤師の立場から植物の治癒力に注目し、医療分野での可能性について研究を行う。日本ホリスティック医学協会運営委員。日本アロマテラピー協会学術研究委員会委員長。NHK文化センター講師ほか。著書「アロマテラピーLESSON」「メディカルハーブLESSON」、「アロマテラピーの事典」など多数。

(Medical Nutrition 29号より)


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