キノコ研究の第一人者、池川哲郎氏へインタビュー
 2001年9月にキエフでキノコ国際学会

キノコの疾病予防・治療効果を研究する「第1回キノコと健康に関する国際学会」が201年9月12〜14日まで、ウクライナ共和国のキエフで開催される。欧米ではMedicinal-Mushrooms と表現されるほど、治療効果を探るキノコ研究が盛んだ。発端は35年前に日本の国立がんセンター研究所で始まったキノコの抗がん剤研究。当時その中心的役割を果たした池川哲郎氏(日本統合医学研究会常任理事)が、キエフ学会の大会長を努める。池川氏にキノコ研究を巡る世界の動向について聞いた。


──米国ではキノコの臨床研究が盛んですが、欧州の状況についてはあまり知られていません。
──キエフの学会では、欧州からも多数の研究者が参加すると聞いていますが。
池川哲郎氏(以下敬称略)
「International-Journal-of-Medicinal-Mushrooms」という国際雑誌があります。この雑誌の編集長をしているのが、ソロモン・P・ワッサーというイスラエルHaifa 大学の教授です。キエフ国立植物科学研究所の研究員を兼任しているワッサー博士は、植物の抗神経作用を研究する中でキノコの効用に着目しました。今回の国際会議も彼の発案によるもので、キノコが疾病の予防と治療にどう係わっているのか、世界の研究者が集まって研究成果を集大成しようというのが学会発足の主旨です。

──国際的なキノコ研究は、池川先生が国立がんセンター時代に行っていた抗がん剤研究が原点だと言われますが。
池川
そうです。国立がんセンター研究所でキノコ研究に着手したのは1966年です。当初は「担子菌類の抗腫瘍活性に関する研究」がテーマでした。現在では、キノコに関する研究は世界的に発展していますが、我々が研究を始めた頃は、日本ではサルノコシカケなどの固いキノコが、がんに有効と言われていました。そこで我々は宿主を介して作用する抗腫瘍活性を調べるため、生物検査でそのような固いキノコを検査しました。しかし、その結果はカワラタケや今話題になっているメシマコブも含めて、十分に満足のいくものではありませんでした。
 
これに対し、食用キノコの水溶性エキスは、固型肉腫(solid Sarcoma180)に対して高い増殖抑制作用を示すことがわかったのです。その後、β−1

──その他のキノコの有効性についてはどうでしょうか。
池川
有名な食用キノコとしては、エノキタケに高い抗腫瘍作用があることを確認しました。多糖体と低分子量たんぱく結合(low molecular weight protein-bound)の多糖体(EA6)が分離されていますが、EA6はi.P.注射ではそれほど有効ではありませんが、経口投与による抗腫瘍作用は実証されています。とりわけ外科手術や他の抗がん剤との組み合わせで、P.O による有効性が証明されています。
 
我々の研究では、抗腫瘍のスクリーニング試験でエノキタケの菌糸体から「proflamin 」を分離、マウスによるP.O により、異系腫瘍にも同系腫瘍にも高い活性をもつことを確認しました。長野県の疫学研究では、エノキタケを主に栽培している農家のがん死亡が、同県の一般の人と比較して極端に低いというデータもあります。(詳細な疫学研究は現在、調査中である)。
 
さらに、食用キノコで人気の高いものの一つであるブナシメジについても、がん予防作用が調査されました。これもまた高い抗腫瘍活性や腫瘍転移に対する予防作用があることが確認され、現在も予防研究が行われています。

──池川先生は、ブナシメジの研究で動物実験の結果を報告されていますね。
池川
調査は、通常の餌で飼育したマウスと、5%のブナシメジの乾燥子実体を配合した餌で飼育したマウスで比較実験を行いました。全てのマウスに対して、強い発がん物質のmethylcholanthreneを皮内注射して、マウスの発がん状況をみたのです。
 
76週間後の状況を調べたところ、通常の餌で飼育した群は、36匹のうち21匹が腫瘍を進行させましたが、5%キノコを配合した餌で飼育した群では、36匹中3匹だけしか腫瘍を発症しなかったという結果が得られました。
 
これらの研究から、キノコを摂取することは、がんの予防や抑制に有効であることが証明されました。食用キノコのがん治療と予防作用のメカニズムは、免疫賦活と抗酸化活性によるもの、と考えられます。

──キノコ研究の第一人者として、キエフ会議では世界の研究者にどのようなメッセージを発信されるのでしょうか。
池川
これまで数多くのキノコを研究した経験から実感するのは、古来から東洋の伝統的医学で言われる「医薬同源」「薬食同源」ということです。エノキタケやブナシメジなどの研究では、そのことを裏付け結果となりました。食用経験の長いキノコは安全性でも問題がなく、しかも食べ続けることで、病気を予防するばかりか治療効果も期待できます。例えば、がん治療では、食用キノコの抽出物を術後の再発や転移を防ぐために役立てることが可能です。
 
キノコを治療に応用する際は、科学的な検証が重要になるのは言うまでもありません。しかし、患者主体の医療を実現するには、医食同源という東洋医学的な考えを取り入れた統合医療の視点が重要になります。キエフ会議では、この点を訴えていきたいと思っています。
 
■キノコ国際学会の問い合わせ先
日本統合医学研究会内〒101-0047 東京都千代田区内神田2-15-14 三信ビル3F
TEL/FAX 03-5298-3663
プロフィール
池川哲郎(いけがわ・てつろう)
昭和37年、東京大学大学院化学系薬学専攻課程修了。昭和40年、国立がんセンター研究所化学療法部に入所。キノコの抗がん活性の研究に着手。米国パデュー大学留学。金沢大学教授を歴任し、現在、長野県農村工業研究所参与、日本統合医学研究会常任理事、日本補完・代替医療学会理事、河北医科大学名誉教授、長春中医学院名誉教授。

(Medical Nutrition 28号より)


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