ここまで進んだ、キノコ研究
 最新学術情報

世はEBMの時代。機能性食品の応用についても、EBN( Evidence−based Nutrition)の概念が提唱され、産官学がそろって基礎から臨床までの研究に取り組んでいる。キノコ食品の最近の研究からいくつかを抜粋して紹介する。


 シイタケ菌糸体

日本大学医学部と長岡L・E・M研究所らの研究グループは第33回日本動脈硬化学会で 「抗コレステロール食負荷家兎動脈硬化性病変に及ぼすLentinus edodes myceliaの影響についての検討」を報告した。

Lentinus edodes mycelia(シイタケ菌糸体エキス、L・E・M)は、ラットやマウスによる研究で脂質低下作用や免疫賦活作用が報告されているが、家兎での研究は少ないため、基本食に1%のL・E・Mを調整したコレステロール食(コ食)を負荷し、動脈硬化への影響を検討した。家兎32羽をコ食で8週間飼育し、その後コ食に(1)1%L・E・Mを傾向投与した群、(2)2%L・E・M群、(3)4%L・E・M群に分けた。8週間飼育した後、大動脈を脂肪染色して動脈硬化病変の占有面積率(SI)や動脈硬化指数(AI)を定量的に検討、病変を組織学的に検討した。

その結果、各群間での体重差はなく、総コレステロール値は対照群と有意差はないが、実験群は8%ほど低下傾向を示した。1%L・E・M群のSIは26.6±10.8%で、対照群48.7±15.3%より有意に低下した。1%L・E・M群のAIは6.6±4.3も対照群の16.9±9.2より有意に低下した。2%L・E・M群と4%L・E・M群のSI、AIは有意差はないが低下傾向を示した。家兎の動脈硬化性病変は泡沫細胞集積からなる内膜肥厚で、執権群の病変部では泡沫細胞の減少傾向が認められた。濃度依存性の総コレステロール変動は認められないが、1%L・E・M群の大動脈病変の進展は抑制され、2%L・E・M群、4%L・E・M群も軽減する傾向にあった。これらのことから、L・E・Mにはコ食負荷家兎の動脈硬化病変を抑制することが示唆された。

 ヤマブシタケ

ヤマブシタケは、中国や日本に広く分布している食用キノコのひとつ。大きさは5〜10cmくらい、中には15cm以上に達する大きなものもある。日本では「ヤマブシタケ」と呼ばれるが、中国では、テナガザルの子どもの頭に似ていることから「猴頭」と呼ばれる。中国では古くから食用のほか、漢方薬としても親しまれ、乾燥させたものがそのまま売られている。

中国では、「消化器系のがんに対して69.3%の有効性があり、術後の再発防止作用もある」との報告がある。日本でも同様の研究が進み、故・静岡大学名誉教授水野卓博士らの研究によれば、がん抑制効果のある「β‐Dグルカン」を多く含有する点、また、アルツハイマー型痴呆症に効果があるとされる「ヘリセノンD」、「エリナシンC」を含むことが示されている。

今年の日本農芸化学会で、兼目裕充(岩手連大・生物資源)氏らは、ヤマブシタケに含まれるエリナシンの生合成経路と、ヤマブシタケの人工液体培養菌体について、新たなエリナシン類の検索を行い、その構造を明らかにしている。

方法は本菌YB4-6237株をグルコース-ファーマメディア-ペプトン-NaClの液体培地(1000ml)で浸盪培養し、得られた菌体(湿重63g)から中性・塩基性区酢酸エチル抽出物(1.7g)を調製。抽出物をクロロホルム-エタノール(40:1−5:1)系のフラッシュクロマトにより分離し、373.7mgの(I)とともに118.9 mg(II)を得た。エリナシンP(I)は、生合成類似の化学変換反応によるエリナシンBへの誘導と5-H/11-H間のNOEにより、その構造を決定した。結果、(II)は(I)の15-ヒドロキシ体と決定し、(II)はその構造と培養中の経時的な量変化から、(I)の生合成前駆体であると推定された。

 霊芝胞子

キノコ食品と言えば、通常食される「子実体」つまり傘の部分が、または根にあたる「菌糸体」が利用される。その一方、植物で言えば種にあたる胞子をサプリメントとして摂取する研究が中国で進められてきた。霊芝に関して言えば、胞子は硬い殻で覆われているため、健康食品としての利用は難しかったが、外殻を破壊してエキスを取り出す技術が開発された。

2000年9月にインドネシアで行われた霊芝胞子に関するシンポジウムでは、霊芝胞子エキスをがん患者に投与した結果が報告された。発表したのは、中国・中山大学のリュー・シン博士らのグループ。対象は肺、肝臓、白血病などのがん患者76名。患者はいずれも疲労、食欲不振、痛みなどの症状を訴えていたが、自覚症状の改善は60%以上であり、数例では腫瘍のサイズの縮小が見られた。さらに、4名の患者ではがんが消失した。シン博士はこれ以外にも循環器疾患、肝炎、呼吸器疾患などへの応用が考えられるとしている。

ハタケシメジ

きのこに含まれるβ-Dグルカンが抗腫瘍作用を持つことは周知のとおりだが、実際にがん患者に投与をした報告は少ない。長野県水嶋クリニック・水嶋丈雄医師と(株)永昌源・総合研究所のグループは、担がん患者におけるハタケシメジ熱水抽出物カプセルの免疫系に与える影響について報告をしている。

対象は同院通院中の14例の担がん患者、平均年齢は57.8歳。ハタケシメジ熱水抽出物カプセルを1400 mg/日内服させ投与前と投与3カ月、その後の内服休止1カ月、さらに再開3カ月後の4回、腫瘍マーカーとNK細胞比を測定した。

この14例においては2例を除いて腫瘍マーカーは有意に減少し、また、休薬によって有意に上昇している。NK細胞は休薬後は有意に低下を見るが、それ以外は統計学的には有意差を認めなかった。  IL18は投与によって上昇休薬にて低下を有意に見た。2例を除いた12例は投与にて、IL2RIL18の上昇がみられ、腫瘍マーカーも減少した。これらの結果から同グループではきのこ(メシマコブ)が腫瘍免疫に有効であると示唆している。

 アガリクス・ブラゼイ (1)

2000年6月、金沢大学の太田富久教授はAgaricus blazei Murillの抗腫瘍活性成分を報告した。太田氏らは、熱水抽出エキスABMK-WWの各画分を、サルコーマ180を背部趾皮下に移植したマウスに10日間経口投与し、腫瘍増殖抑制効果と副作用を検討。さらにin vitroでの腫瘍細胞障害作用、ICR/JCL-nunu(T細胞機能欠如)マウスへの作用、NK細胞、マクロファージの阻害剤で免疫学的細胞関与を調べた。

経口投与で68%の腫瘍増殖阻害率を示したABMK-WWはin vitroでヒト口腔がん由来細胞株(KB細胞)への細胞障害作用を示さないことから、腫瘍増殖阻害は細胞毒性的ではなく、免疫増強的に作用していると考えられた。またABMK-WWの高分子画分(ABMK-WHM)と低分子画分(ABMK-WLM)は、それぞれ65および71%の抗腫瘍効果を示した。

ICR/JCL-nunuマウスで検討した結果、ABMK-WLMにT細胞を介した免疫学的機序の関与が示唆された。さらにNK細胞を除去した処置マウスで検討した結果、未処置マウスとは対照的に、腫瘍増殖が抑制されなかったため、ABMK-WLMの腫瘍増殖阻害作用に、NK細胞、マクロファージの関与が示された。さらに太田氏らはABMK-WLMをゲルろ過クロマトグラフィーで腫瘍増殖阻害率83%の画分を得ている。

 アガリクス・ブラゼイ (2)

中国・中医科大学付属病院、中医薬研究院、人民病院など5施設で、「アガリクス・ブラゼイの臨床試験が行われた。試験は浙江省中医学院・徐志瑛教授が指導し、300名のがん患者を対象に行われた。内訳は乳がん、肺がん、肝臓がん、大腸がん、胃がんの5種類。患者をアガリクス群150名、プラセボ群150名の2グループに分けた。アガリクス群はアガリクス・ブラゼイの熱水抽出エキスを含有する食品((株)ビーボコーポレーション)を1日3回、1回2包(2.5g/包)を食前に摂取した。対照群にはデキストリンを使用した。試験期間は30日間とした。

徐教授の「中医病状治療効果評定基準」に基づく判定では、アガリクス群で、「有効(顕著な効果あり+効果あり)」は149例中130例で有効率は87.2%、プラセボ群の有効率は150例中54例の36%であり、アガリクス群が優れていた。がんの部位によるアガリクスの効果に差異はないと考えられた。

症状別では全身倦怠、無気力、息切れ、食欲不振、悪心・嘔吐といった自覚症状のいずれにおいてもアガリクス群はプラセボ群より優れており、化学療法や放射線治療の副作用の軽減にも期待できるとしている。

 その他

東京薬科大学とタカラアグリ(株)の研究グループは、99年の日本薬学会で、ブナシメジ、エノキタケ、マイタケ、シイタケの各きのこ粉末および、それら4種混合粉末中のβ-グルカンについて解析した結果を報告している。

標準物質には、抗腫瘍性β-グルカンとして臨床利用されているソニフィラン(SPG)を使用。熱水抽出物1mgあたりのSPG含量は4種混合粉末48.8、ブナシメジ12.9、エノキタケ114.4、マイタケ93.6、シイタケ342.5μgであったが、アルカリ抽出物1mgあたりのSPG含量はアルカリ抽出物が著しく高く、粉末間で比較すると、4種混合粉末がもっとも高いSPG含量を示した。

これらの結果から、4種混合粉末は冷アルカリ抽出によってきわめて高いβ-グルカン含量を示すことが明らかになった。そして、4種混合粉末のアルカリ抽出物中のβ-グルカンはSPGに比べ、高分子量である可能性が示唆された。また、マクロファージの活性も増強させるものと示唆している。

薬用キノコ10選の薬理作用

キノコ健康食品の多くは免疫機能の亢進を目的に利用されている。しかし、有用成分と目されるβ―グルカンの量や構成はそれぞれに特長があり、目的によって選択することができる。ここでは、健康食品として利用されている代表的なキノコについて、生理活性や現在の研究動向を紹介する。

アガリクス・ブラゼイ
学名Agaricus blazei Murill、和名ヒメマツタケ、別名カワリハラタケという。β―グルカン含有量は決して高くないが、金沢大学の太田富久教授らの研究で低分子領域に抗がん作用の高い化合物が含まれていることが分かり、化合物の特定が注目されている。三重大学の研究グループによって抗腫瘍効果、血糖降下作用、血圧降下、コレステロール低下など多く報告されており、基礎研究が充実している。

エノキダケ
エノキダケは池川哲朗薬博ら国立がんセンター、長野県農村工業研究所の20年以上にわたる疫学研究で、エノキ栽培農家は、男女共にがん死亡率が低いことが確認されている。池川氏は、エノキの子実体から分離したEA6(低分子蛋白結合多糖体)が経口投与で制がん作用を見出している。またエノキには、レモンの10倍に値するラジカル捕捉作用も報告されている。

シイタケ
シイタケは、そのβ-D-グルカンが抗がん剤「レンチナン」の開発のもととなったことでも知られる。抗腫瘍活性、免疫賦活作用のほか、エリタデニンによるコレステロール低下作用などが報告されている。臨床的には菌糸体培養物が用いられ、B型肝炎、C型肝炎などウイルス性肝炎での治療実績が多い。子宮体がん抑制の症例報告もある。

冬虫夏草
冬虫夏草は、虫やその幼虫に寄生するキノコの総称で、約400種発見されている。成分はコルディセピンという抗腫瘍活性物質やD-マンニトール、β-D-グルカン、エルゴステロールなど含有。免疫賦活作用、抗腫瘍作用、血管拡張作用が報告されている。

ハナビラタケ
ハナビラタケの有用性は、99年3月の本薬学会ではじめて発表された。β―グルカン含有量が多く、薬理研究ともに臨床応用が行われている。東京薬科大学の宿前教授らの研究により、β―グルカンのうち、そのほとんどが抗腫瘍活性を持つβ(1―3)グルカンであることが確認された。

ブナシメジ
食用キノコとして一般的なシメジは、ブナシメジの栽培種。活性酸素消去能や血中の過酸化脂質を減少させる作用が、動物実験で確認されている。東京薬科大学の研究グループによって抗腫瘍活性物質としては、6分岐β1,3―グルカンが確認されている。現在国立がんセンターを中心とした研究グループによって疫学的検討が行われている。

マンネンタケ(霊芝)
サルノコシカケ科で、生薬名は霊芝。エルゴステロール、多糖体、有機酸、クマリン、マンニトールを主成分とし、漢方薬味として利用され続けてきた。主に強壮作用、鎮静作用が知られ、神経衰弱、不眠、消化不良、気管支炎などに利用されている。中国では2000年4月に薬局方に収載され、臨床応用の広がりが期待されている。

マイタケ
神戸薬科大学の難波宏彰教授らによってマイタケ抽出物「MD―フラクション」の研究が行われており、腫瘍移植マウスでの腫瘍増殖阻止率は86.6%。NK細胞、T細胞の活性化、サイトカイン産生能の増強などが報告がある。マクロファージのがん傷害能を直接増強すると考えられる。

メシマコブ
生薬名は桑黄。韓国では93年に医薬品として承認されている。メシマコブに含まれる多糖体はβ―グルカンなどのグルコースの含有が少なく、マンノースやガラクトースが比較的多いことや酸性ヘテロマンナンタンパク複合体であること、分子量が約150万個と比較的大きい――などと特長を持つ。腫瘍阻止率96.7%というデータがある。

ヤマブシタケ
ヤマブシタケにはヘテロβ-D-グルカンが含まれており、他のキノコにはない活性多糖のマンノグルコキシラン、ガラクトキシログルカンが注目されている。また含有成分ヘリセノンD、エリナシンCが神経細胞成長因子の生合成を促進するとして、脳機能の活性化についても検討されている。

(Medical Nutrition 28号より)


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