痴呆スクーリングシステム

痴呆による知的機能の衰えの測定には、これまでも問診テストに加えて、画像診断、簡易評価スケールなどが活用されてきた。さらに今日では骨髄液検査、血液検査、遺伝子検査の実用化が進んでいる。痴呆スクリーニングシステムの動向を紹介。


 画像と問診の組み合わせ

早期治療を実現するスクリーニングシステムは、細分化が進む脳神経科学の各分での研究によって、様々な角度から開発が進められており、的確で非侵襲的かつ安価で臨床応用が可能な早期診断システムが模索されている。

すでにMRIやCTなどを用いた画像診断は器質的な変性を捉える上で欠かせない手段となっており、問診テストとの総合評価を可能とした。

健忘、見当識障害、思考障害、認知障害などを評価する問診テストでは、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)、GBSスケール、MENFISなどが一般的に用いられている。より痴呆の程度を詳細かつ広範囲に、あるいはより簡便に測定するための評価スケールが開発されており、なかには金子満雄医師の「かなひろいテスト」や清水允煕医師の「NSテスト」など第一線の専門医が開発した簡易評価法もある。一方、脳代謝改善薬の再評価とアリセプト(塩酸ドネペジル)の発売に伴い、Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS)の普及も著しい。

こうした問診テストでは学習効果による得点の向上や評価の客観性に関する指摘もあり、端末を使用するソフトの開発も進められている。

 待たれる新規マーカー

新たなスクリーニングシステムとして遺伝子技術を応用した診断法が注目されている。遺伝子ドックを開設した九段クリニックではアルツハイマー病の原因遺伝子ApoEの検査を実施している。阿部博幸院長は近著のなかで「完全に予防する手だてがないにしても、食生活に留意するならリスクを軽減できる。にもかかわらず発病するにしても、事前にリスクを知っていれば必要で適切な社会的準備が可能」として有用性を説明する。臨床検査最大手の(株)エスアールエルによれば「アルツハイマー病の原因遺伝子の研究は必要だが、現在のところ大学病院の研究レベルとして検査依頼がある程度。治療法と検査は車の両輪であり、確立した治療法がない痴呆に関しては研究段階」という。国内で実施されている遺伝子検査のほとんどは、医薬品の選択のために白血病の型や感染症の病原体を特定することに利用されているのが現状だ。しかし米国では発症前診断が実施され、倫理的な問題としてクローズアップされている。

また診断マーカーの開発も急ピッチで進められている。カナダでは先頃、新たな診断マーカーとして循環血液中に見られる蛋白ヘムオキシゲナーゼ(HO)ー1に関する発表があった。HO-1はアルツハイマー病患者の脳で増加が確認されているが、血中では逆に少ないという特性を備えている。新検査法の有病正診率は88%、無病正診率75%とされている。アルツハイマー病とApoE遺伝子の関係を発見した東大大学院講師の難波吉雄氏も血液から診断マーカーを導く研究をしている一人だ。難波氏は「アミロイド蛋白が溜まるアルツハイマー型痴呆は、ものが溜まるという点で動脈硬化に似ており、そういう観点から研究を進めている。今後1年ほどで血液中の診断マーカーを発表したい」と語る。決め手となる新規マーカーの開発は時間の問題だ。

予防・治療システムに 感性測定

患者の感情の変化を取り入れ、痴呆症のケアを行う新しい予防・治療システムが実用化に向けて動き出した。このシステムを運営するのは、10月中にも設立が予定されている新会社(株)アルツハイマー病予防ネットワーク機構。早期診断法として武者利光氏(東京工業大学名誉教授、(株)脳機能研究所社長)が開発した「脳皮質劣化度計測システム」と「3次元脳画像システム」を活用し、さらに治療(ケア)効果を測る指標として人間の感情を計測できる「感性スペクトル解析法(ESAM)」と「リフレッシュ療法」を組み合わせることによって、治療(ケア)の効果を上げようというものだ。
 
診断は、まず(1)MRI Viewerによって得られた3次元脳画像で脳の立体画像から梗塞などの異常を検査、脳血管性痴呆の診断を行う。梗塞等の痕跡がない場合は(2)アルツハイマー型痴呆及び混合型を検査するため、脳皮質劣化度計測を行う。これは、多チャンネル脳解析(21チャンネル)によって大脳皮質の劣化を推定するシステムで、定期的に検査することで劣化の進行をモニターできる。脳皮質劣化度計測で得たデータは、さらに(3)感情を5秒単位で計測する感性スペクトル計測システムによって分析が行われ、「喜・怒・哀・楽」の4つの感情を定量化することで、心理的な治療(ケア)の効果を測定できる。
 
これらのスクリーニングシステムに加えて、京北病院・小林常雄院長が開発した「リフレッシュ療法」、米国カリフォルニア大学のウイリアム・R・シャンクル助教授が開発した電話による問診ソフトを活用する。 同社ではこのシステムを協力病院に提供し、ネットワーク化を図ることによって、定期的な早期スクリーニングと早期治療の実現を目指す。

新システム「ランダム打点法」

ゲーム感覚で画面のマス目に点を打つだけ、というスクリーニングシステムが開発された。(株)ウェルビーイングが企画した「AMTHAT(アムザット)」(発売元(株)ニューコム)で、すでに医療機関や健診センターで使われている。
 
試験方法はいたって簡単。生年月日、性別を打ち込み、画面のヨコ12×タテ20のマス目に点を30個打てばよい。被験者には「格子の中に自由に30個の点を打って下さい。ただし、規則的ではなく、ばらばらに打って下さい」と指示する。時間の制限はない。ソフトが(1)打点分布のばらつき(2)移動量の総和(3)移動変位のばらつき(4)方向性のばらつきを判断し、点数評価。それに年齢を加味し、これまでの1万人のデータをもとに総合評価(5段階)する。
 
なぜ、点を打つだけで評価が可能なのか。それは「点の分析」理論に基づいている。従来から絵画によって知的機能を測定する方法があるが、ランダム打点法は、絵画を「点の集合」に置き換え、分布や軌跡を分析して一定の統一された情報を測定できるようにした。さらに「規則的ではなく、ばらばらに」という指示には、言語に対する認知力と記憶力を必要とする。この方法で得られた結果は、長谷川式スケールとも相関することが分かっている。学習による得点アップもほとんどなく、定期的に評価できるのも特長だ。

(Medical Nutrition 19号より)


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