倹約遺伝子をもつ日本人は太りやすい民族 内臓脂肪をためないことが予防策
  浅野生活習慣病予防研究所 浅野次義医博

運動不足と栄養過多によっておこる内蔵肥満は、糖尿病を発症させる遠因と言われる。浅野生活習慣病予防研究所で肥満治療を行う浅野次義医師に糖尿病予防の留意点を聞いた。


──糖尿病予防で最も注意しなければならない点をお聞かせ下さい。
浅野次義医博(以下敬称略)
糖尿病につながる原因で、一番恐いのは内蔵脂肪です。内蔵脂肪がたまった時点で、時限爆弾を抱えたようなものです。これにストレス、風邪などの外的因子が突然加わると糖尿病が発症することがあります。ですから最大の危険因子は内蔵脂肪で、ストレス等は引き金と言えます。
 
内蔵脂肪の状態を判断する一つの目安はウエストサイズの変化です。20歳の時と比べてウエストが5cm伸びたら要注意です。10cm伸びたら要治療です。お腹が出ること自体が危険信号なのです。
 
もともと日本人は、エネルギーを倹約する遺伝子を持っている人が多い民族ですから、普段から食事のバランスや適度な運動を心掛けなければなりません。内蔵脂肪が増えすぎた状態が続けば、糖尿病になる確率は極めて高くなります。
 3人に1人は倹約遺伝子を持っている

浅野
近年心配すべきことは、中高年の肥満が増加していることと、脂肪エネルギーが全体の25%を超えてしまっている点です。また、穀類、特に米飯の摂取量が年々減少していることも留意すべき点です。
 
この3点は糖尿病を予防するという観点では重要なことです。従来の粗食、典型的な和食は脂肪が少なく繊維質が多く、カロリーが低いため、本来糖尿病になりやすい体質をカバーしていました。つまり、かつての和食が日本人の糖尿病にブレーキをかけていたわけです。
 
しかし、食生活が欧米化し、高脂肪、高カロリー、低繊維質の傾向が強くなり、このブレーキの作用が効かなくなり、爆発的に糖尿病が増加しているのが今の状態です。これからは米飯よりもおかずを多く摂るようになってしまった食習慣を穀類に依存した食生活に戻すことが必要で、欧米化が進んだ現在の食生活にブレーキをかける必要があるのです。
 薬物療法と食事療法

──エネルギー倹約遺伝子を持っていても生活習慣を変えれば、予防が可能になるわけですね。
浅野
倹約遺伝子を持っている人は、内蔵脂肪をためやすく、糖尿病にもなりやすいわけですから、第一の予防策は内蔵脂肪をためないような生活習慣にすることです。
 
倹約遺伝子の正体を解明する手掛かりとなったのは、アメリカの先住民であるピマインディアンという部族の存在でした。ピマインディアンは、その昔モンゴルからアメリカ大陸に渡った民族の子孫とされています。彼らは西部開拓時代が終わると政府の命令でアリゾナ州南部へ移り住むことになりました。
 
酪農や狩猟で暮らしていた民族が居留地に押し込められたのをきっかけに食生活も欧米型の高脂肪食が中心となりました。その結果もともと痩せていた体型が急速に変化し糖尿病を発症した人は、民族の80%以上に達しました。
 
この例は他人ごとではありません。日本人もピマインディアンと同じモンゴロイドです。ルーツは同じなのです。京都府立医科大学の吉田俊秀教授が行った遺伝子診断調査によると、全体の39%の人に遺伝子異常が判明しました。つまり日本人の3人に1人の割合で、太りやすい倹約遺伝子を持っていることになり、今太っていない人の体にもこの遺伝子が組み込まれている可能性が高いことがわかったのです。ちなみに白人が倹約遺伝子を持っている確率は10%程度です。日本人は40%近くありますから、糖尿病になりやすい民族と言えます。20年前は成人の10人に1人が糖尿病と言われましたが、今は5人に1人になりました。まもなく3人に1人になると言われています。さらに将来的には3人に2人になる恐れもあります。こうなると日本は糖尿病列島ですね

──倹約遺伝子と言われてもピンときませんが。
浅野
1日の倹約量は200Kcalと言われています。つまり1日に消費する基礎代謝量が普通の人に比べて200Kcal少ないということです。ですから、その分よけいに体を動かしてエネルギーを消費するか、あるいは食事の摂取カロリーを減らさないとなかなか痩せることができません。
 
1日200Kcalですから、1年にすると7万3000Kcalです。10年たったら絶対に内蔵脂肪がたまります。基礎代謝は年齢を重ねるほどに低下しますから、運動しない生活を続けると1日400Kcalたまる場合もあります。
 食欲をコントロールするサプリメントを活用することも一つの自衛策

──糖尿病を予防するには、生活習慣を見直して内蔵脂肪をためないことに尽きますね。
浅野
食べすぎたら運動をして、代謝することですが、現実にはそう簡単にはいきません。100Kcalを消費するには30分歩かなければなりません。これが600Kcalだったら大変なことになります。
 
それと食事の誘惑をどう克服するかがポイントとなります。カウンセリンで治る程度ならいいんですが、一種の精神障害で異常な食欲を抑えることができない人がいます。薬物療法は、医療保険で3カ月しか使用できませんから、食欲をコントロールするサプリメント(栄養補助食品)が必要になります。
 
脂肪を燃やす作用のあるものとしては唐辛子に含まれるカプサイシンなどがあります。澱粉の消化吸収をブロックするものには小麦アルブミン、脂肪吸収を抑えるものには米胚芽エキスなどがあります。市販されている機能性食品の中には臨床試験を踏まえて、効果が裏付けられているものがあります。それらを上手に活用することも内蔵脂肪の取りすぎを防ぐ自衛手段になり、ひいては糖尿病を予防することにもつながります。

プロフィール
浅野次義(あさの つぐよし)
1949年生まれ。東京都出身。東京慈恵会医科大学卒業後、パリ大学医学部に留学。帰国後、大森赤十字病院内科部長、東京慈恵会医科大学青戸病院等を経て、現在、浅野生活習慣病予防研究所を開設。神経内科、糖尿病等の専門分野を活かし、肥満患者さんの心と体の両面から診療にあたっている。
浅野生活習慣病予防研究所
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-20-1
TEL/03-3379-2500、FAX/03-3379-5566

(Medical Nutrition 27号より)


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