3大栄養素のバランスを上手に保って糖尿病予防
 聖マリアンナ医科大学栄養部長・医学博士 中村丁次先生

生活習慣病の代表的なものとして「糖尿病」があります。糖尿病とは膵臓から分泌されるインスリンの作用不足によっておこるさまざまな代謝障害です。糖尿病には、膵臓でのインスリンの生成が悪く、分泌量が不足して起きる「・型糖尿病」と、膵臓からある程度のインスリンは分泌されているが、インスリンが細胞に作用するとき、それを受ける側に障害があり、十分に作用が発揮されないために起こる「・型糖尿病」があります。ここではこの・型糖尿病における食事療法のポイントと食生活での予防について、聖マリアンナ医科大学栄養部長・中村丁次先生にお話を伺いました。


 まずは「肥満」の改善から

「糖尿病の予防」という観点からすれば食事療法に変わるものはありません。また、糖尿病になりかかっている状態(グレーゾーン)のときに積極的に食事療法を導入して健康な状態に戻していくことが重要です。このグレーゾーンには多くの人が存在します。この時点での食事療法の早期の導入が大切で、この領域は食事療法の独壇場といえます。

糖尿病予備軍で最も注意すべき人は肥満の人です。まず、肥満の治療が最優先になります。また、子供のころから肥満にならないように常に心がけることも大切です。日本人は元来、過食と高脂肪食に強くないということが遺伝子の研究によりわかってきています。糖尿病の人の8割が肥満を経験しているとも言われています。糖尿病になりやすい体質を持つ人が過食という侵襲にさらされたときに、インスリンの作用機能が低下してくるわけです。高脂肪食が原因であるとわかってきましたので、脂肪の吸収を抑制したり、低脂肪食に切り替えたりすることが必要になってきます。

 食生活の変化が原因

近年心配すべきことは、中高年の肥満が増加していることと、脂肪エネルギーが全体の25%を超えてしまっている点です。また、穀類、特に米飯の摂取量が年々減少していることも留意すべき点です。この3点は糖尿病を予防するという観点では重要なことです。従来の粗食、典型的な和食は脂肪が少なく繊維質が多く、カロリーが低いため、本来糖尿病になりやすい体質をカバーしていました。つまり、かつての和食が日本人の糖尿病にブレーキをかけていたわけです。しかし、食生活が欧米化し、高脂肪、高カロリー、低繊維質の傾向が強くなり、このブレーキの作用が効かなくなり、爆発的に糖尿病が増加しているのが今の状態です。これからは米飯よりもおかずを多く摂るようになってしまった食習慣を穀類に依存した食生活に戻すことが必要で、欧米化が進んだ現在の食生活にブレーキをかける必要があるのです。

 薬物療法と食事療法

明らかにすでに糖尿病と診断された場合、代謝異常が固まっていますので真っ白な健康な状態に戻すことはできません。糖尿病が慢性疾患といわれるのはこのためです。この状態では食事療法と併行して適正な薬剤も使用しなければなりません。糖尿病と診断された初期の時点では、肥満の患者さんは肥満を治せばある程度もとの状態に戻すことができます。しかし、多くの場合は薬剤を使用します。インスリン注射のような方法もありますし、二糖類分解酵素阻害剤のような薬剤によって糖質の消化酵素の力を落として、糖質が消化・吸収されにくい状態にするものもあります。これは食事療法と薬物療法の中間的に位置するものです。

糖尿病の治療では血糖コントロールも大切ですが、動脈硬化などの合併症をどのように予防するかという点も重要です。血糖のコントロールと動脈硬化の予防、この2本の柱が食事療法の中で重要な位置を占めてきます。そのひとつが食後の高血糖の抑制です。要するに1日の総カロリーを調節するということと、食後の血糖上昇を抑制する点のどちらがより重要なことなのか問題になってきます。1日のなかで血糖が上昇する時点は3点(朝・昼・夕)ありますが、この血糖の上昇の山をなだらかにするとヘモグロビンA1Cの上昇も低くなり、合併症の予防にもなるのではないかと考える方法です。つまり、食後高血糖の抑制を今の食事療法のカロリーコントロールとあわせてどのように加味していくかが重要な点なのです。

ここで、現在の・型糖尿病における食事療法の基本についてまとめておきましょう。
・適正なエネルギー補給(エネルギー制限)
・各栄養素の適正な補給(栄養のバランス)
・規則正しく食べる(正しい食べ方)

 3大栄養素の必要量を確保して、ビタミン・ミネラルを十分に摂る

また過食にも十分に注意を払う必要があります。タンパク質、脂質、糖質を合わせて「3大栄養素」と呼びます。これらはいずれもエネルギー源になるものです。エネルギーはやや低めにした方がインスリンの需要量も少なくなり、肥満が改善されて、良い方向に進みます。しかし、低いカロリーのなかでもタンパク質摂取量は必要量を確保することが大切です。糖質、脂質に対しては、それぞれの割合をどう配分するかが問題になってきます。脂肪の割合が増えるとコレステロールが上昇し、逆に糖質の割合を多くすると、血糖のコントロールが悪くなったり、中性脂肪が増大し、HDLコレステロールが低下します。脂質の場合、エネルギー比で20〜25%位が理想的です。そして残りを糖質に充てるわけです。

 抗酸化作用のあるビタミン・ミネラルを十分に摂取する

ビタミン、ミネラルに関しては、全体的な食事量が減りますので、栄養所要量以上に摂取し、欠乏症を防ぐようにします。しかし、所要量以上に摂取することによって糖尿病の予防や治療に有効であるかどうかは現時点ではわかりません。ビタミンCを多く摂取したら治ったとの報告も聞きます。ミネラルに関しては亜鉛、マグネシウム等が糖尿病予防に効果があるものとして候補に上がっています。これらの作用機序はまだ完全に解明されていませんが、もしかするとこれら微量元素が働く可能性も十分にあると思います。ひとつ言えることは、糖尿病は動脈硬化を進行させますので、抗酸化作用のあるビタミン・ミネラルを十分摂取することが望ましいと思います。また、健康食品や特定保健用食品、サプリメントを摂取することにより、糖尿病が治ったとの声も聞きますが、ベースになる食事の全体的なカロリーと3大栄養素の割合を忠実に守った上で補助的に利用すると良いでしょう。

ただ、1日1600kcalといった低カロリーの食事からでは、微量元素を理想的に摂取することは非常に難しくなります。ですから、不足分を補う意味でサプリメントが必要になります。微量元素は代謝の補酵素の役割をしていますので、代謝をスムーズにするためにこれらサプリメントを積極的に摂ることはプラスになるでしょう。

以上のような点を考慮に入れ糖尿病の予防のポイントを整理しておきましょう。(1)肥満を防ぐ、(2)和食を見直す、(3)繊維質を十分に摂取する、(4)食事はゆっくりよく噛んで、(5)脂っこいものはできるだけ控える――この5点が予防の早道です。是非日頃から心がけてみてください。

プロフィール
中村丁次(なかむら ていじ)
72年徳島大学医学部栄養科卒業。新宿病院を経て聖マリアンナ医科大学病院勤務、患者の食事療法を指導するとともに肥満治療の研究に従事。現在、聖マリアンナ医科大学病院栄養部長。著書に「新版 食事で病気を治す本」など多数。医学博士。

(Medical Nutrition 27号より)


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