|
肥満を放置すれば生活習慣病発症は必至
日本人の肥満人口(15歳以上)は、推計で2300万人(1998年国民栄養調査)。とくに男性の場合は30、40歳代の3人に1人が肥満または過体重という深刻な状況。この状態を放置しておけば、糖尿病、高血圧症、高脂血症につながる可能性が極めて高い。肥満対策を巡る医療現場の動向を探った。
 |
「運動不足と思う」人は男性7割、女性8割 |
肥満は、糖尿病、高血圧、高脂血症、代謝・循環器疾患のみならず、一部のがんや整形外科的障害の主要な原因の一つと考えられている。欧米諸国では、公衆衛生上の観点から、肥満対策は優先順位が高い領域であるが、日本では治療法も予防法も確立されていない。
1999年の肥満学会の会長を努めた井上修二・共立女子大学教授は、2000年9月に都内で開かれた農水省・食品総合研究所シンポジウムで講演し、「日本人はBMI30以上の高度肥満は少ないが、BMI25以上では種々の生活習慣病の危険率がBMI22に比べて2倍になるので、合併症予防の対象となる人は多い。生活習慣の改善でも肥満は大きな意味を持つ」と指摘。同氏によると、糖尿病の6割、高血圧と高脂血症は3割が、生活習慣の改善で軽快、治癒するという。これを医療費に換算すると約3兆円が節約できるという。
肥満対策は、食事療法、運動療法、メンタルケアの3点に尽きる。国民栄養調査によると、「運動不足と思う」人は、昭和54年に比べ、20歳代以降で増加しており、特に男性では、30、40歳代で7割を超え、女性では、20、30歳代で8割を超えている。
医療現場でも運動療法の重要性が再認識されている。2000年4月の診療報酬改定では、「運動療法指導管理料」に、高脂血症と糖尿病が新たに算定加算された。算定要件は、許可病床数が200床未満の病院又は診療所である保険医療機関において、高脂血症、高血圧、糖尿病を主病とする外来患者に対して、運動療法について相当の経験を有する医師が運動療法に係わる指示せんを交付し、総合的な治療管理を行った場合に、1カ月に1回を限度として算定できる。
 |
現行の保険診療では肥満対策は困難 |
海外では、抗肥満薬の分類は、(1)食欲抑制(2)エネルギー消費の亢進(β3刺激剤)(3)糖または脂肪の吸収抑制Cその他――に分かれているが、日本では、(1)の食欲抑制剤しかない。現在、抗肥満薬に承認されているものは、マジンドールだけだが、適応症は肥満度が+70%以上またはBMIが35以上の高度肥満症で、投与期間は3カ月以内とされている。つまり生活習慣病の予備軍であるBMI35未満の肥満者への治療や予防を行うことは、現行の保険診療では、現実的に不可能ということになる。
かつて都内の私立大学附属病院で肥満外来を担当していたある医師は、「例えば1日に20人の患者を診るとすると栄養指導料は1人85点なので1700点、つまり1日の診療報酬額は、1万7000円にしかなりません。医師が1日付きっ切りで働いて、さらに看護婦や管理栄養士が加わってこの額では病院は赤字です。肥満治療の現場は、こういう厳しい状況であることを知ってもらいたい」と話す。
確かに健康日本21では、「肥満・過体重の是正のために適正な体重コントロールを実践したり、極端なダイエットなどによる病的な痩せを予防するためにも適正体重を正しく認識させることが重要」とうたっているものの、医師が肥満対策に取り組める環境が整っているとは言い難い状況だ。
日本の保険診療には、「未病を管理する」という考えがないことから、肥満対策はどうしても自費診療に頼らざるを得ない面がある。
(Medical Nutrition 19号より)
|