「ハタケシメジ」

三重大学生物資源学部・久松眞教授らの研究チームは抗腫瘍活性を有するシメジ属の食用キノコ、ハタケシメジ熱水抽出物が、血圧を上昇させる物質であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害する作用があることを確認した。2000年5月に愛媛で開催された第54回日本栄養・食糧学会大会で発表した。試験は、ハタケシメジをはじめ9種類の食用キノコの子実体について、腫瘍抑制効果を探るとともに、ACE阻害活性を比較検討した。その結果、抗腫瘍活性では、ハタケシメジ子実体熱水抽出物が、89.2%の腫瘍抑制率を示した。ACE阻害活性では、熱水抽出物で92.4%、エタノール抽出物で75%、冷水抽出物で100%の阻害活性効果を示した。


(1)抗腫瘍活性試験の方法
抗腫瘍活性試験に用いるサンプルの調製法は、(1)ハタケシメジ、(2)マイタケ、(3)シイタケ、(4)ヒラタケ、(5)ブナシメジ、(6)エノキタケ、(7)エリンギ、(8)ナメコ、(9)マッシュルームの9種類の食用キノコの生の子実体100gを700驍フ蒸留水で1時間熱水抽出を行い、2倍量のエタノールを加えて多糖を沈殿させ、遠心分離によって得られた沈殿を凍結乾燥することで粗多糖CP−1を得た。
 
Sarcoma 180固型がんを皮下に移植したICR/S1c系マウス(5週齢、雌性、1群14匹)に、各キノコ子実体から得られた多糖(10mg/kg)を、移植24時間後から、連続10日間腹腔内投与し、腫瘍移植3週間後の腫瘍サイズを測定し、コントロールに対する腫瘍抑制率を求めた(図1)。また、腫瘍移植4週間後の死亡率(死亡マウス数/全マウス数)及び完全退縮率(がんの完全消失マウス数/全マウス数)も求めた。

(2)抗腫瘍活性試験の結果
 ハタケシメジ子実体熱水抽出物中の多糖は、89.2%の腫瘍抑制率を示し、9種類の食用キノコ中で最も高い値であった。次いでマイタケの85.3%、シイタケの85.0%、ヒラタケの75.5%の順であった。ハタケシメジは、シイタケ、マイタケ以外のキノコ及び対照群と有意差が認められたが、シイタケとヒラタケとの間に有意差は認められず、また、マイタケはヒラタケ、ブナシメジ、エノキタケとは有意差が認められなかった。さらに、完全にがんが退縮しているマウスがみられたのはハタケシメジ投与群(14匹中2匹)のみであったことから、ハタケシメジの抗腫瘍効果は、他の食用キノコよりも優れていることが示された(図2)。

(3)ACE阻害活性試験の方法
 1.冷水抽出物の調製法
9種類の生の食用キノコ子実体80gをそれぞれ250驍フ蒸留水とともにミキサーで3分間粉砕後、低温(4℃)で、20時間振とうし、これを遠心分離(6000rpm、30min)し、上澄液をNo.50の濾紙(東洋濾紙)で濾過後、凍結乾燥して冷水抽出物(CWE)を得た。
 2.工業的なハタケシメジの熱水抽出物の調製法
500kgの生の子実体を5のイオン交換水で熱水抽出し、遠心分離後、濃縮、スプレードライして熱水抽出物(HWE)を得た。
 3.その他の抽出物の調製法
乾燥のハタケシメジ子実体100gを80%エタノールで抽出し、濾過後の濾液を凍結乾燥してエタノール抽出物(EE)を得た。残渣はさらに熱水抽出を行い2倍量のエタノールを加えて多糖を沈殿させた後、遠心分離し沈殿を得た。沈殿をさらに蒸留水に対して透析し、凍結乾燥して粗多糖(CP−2)を得た。

(4)ACE阻害活性試験の概略
 1.ACEの作用機序
10のアミノ酸からなる不活性型のペプチド、アンジオテンシンTは、アンジオテンシンT変換酵素(ACE)の作用により、ヒスチジルロイシンがはずされ、活性型のアンジオテンシンUとなり、昇圧作用を示す。そのためACEを阻害することで、血圧降下作用がみられる。
 2.試験に用いたサンプルの前調製
それぞれのサンプルを蒸留水に溶かし、0.45ミクロンのフィルターで濾過し、試験用のサンプルとした。
 3.ACE阻害活性の測定法
ACEが作用するヒスチジルロイシン(HIs−Leu、2つのアミノ酸からなる)を含むHHLを基質に用いることで、ACE阻害活性を測定した。ACE、サンプル、基質HHLを含む反応液をインキュベート後、塩酸を添加することで反応を止め、遊離したヒプリル酸を酢酸エチルで抽出し、その量を228nmの吸光度により測定した。ACE阻害がおこる場合は、分解反応が抑えられるため、228nmの吸光度は小さくなる。サンプルの代わりに蒸留水を添加した時の吸光度との差からACE阻害活性を求めた。

(5)ACE阻害活性試験の結果
 CWEで100%のACE阻害活性が認められ、熱水抽出物HWEでも92.4%、EEで75%のACE阻害活性が認められた(図3)。ところが、各抽出物をプロテアーゼで処理すると、それらのACE阻害活性はいずれも大きく減少した。これらの結果から、ハタケシメジ子実体には、ACE阻害活性成分として、少なくともタンパク質もしくはペプチドが存在していることが明らかになった。
 
 9種類の食用キノコの冷水抽出物(CWE)のACE阻害活性の比較では、ハタケシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ等に高いACE阻害活性が認められた(図4)。ハタケシメジのACE阻害活性は、これまでに報告のあるブナシメジ、エノキタケ、マイタケよりも高く、血圧降下をターゲットにした機能性食品として、優れた効果が期待できると考えられる。
 
以上の結果から、ハタケシメジの生理機能は、血圧降下作用と、抗腫瘍効果を共に期待できる点で、他のキノコよりも優れていることが示された。

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