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<第10回> 脂肪の制限について 食事・栄養・解毒・通常療法の統合/ゲルソン・インスティテュートの実例から
ジャーナリスト 氏家京子
ゲルソン療法の食事では、 3つの栄養成分に関して制限規則がある。 ひとつは、 すでにこの連載中で述べてきた 「ナトリウム制限」 である。 2つ目の制限は、 脂肪。 3つ目は、 タンパク質。 今回は、 2つ目の脂肪について述べてみたい。
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ある乳がん患者のさまざまな油脂類の経験。 |
1935〜36年、 まだニューヨークに渡る前だったマックス・ゲルソン医師は、 パリでがん患者の治療を行なっていた。
そのときまで、 肉、 卵、 すべての食用油脂をがん患者の食事から除外して、 良好な治療経験を積んでいたゲルソン医師だったが、 パリの患者のなかに、 バター、 卵の黄身、 生肉を自宅で食べながらゲルソンの診療を受けた乳がん患者がいた。
当初この患者は、 ゲルソンの指示通りの食事を行なったが、 患者の身近には兄弟と親友の合計3人の医師がおり、 彼らの助言で、 あるとき卵の黄身を食べ始めたのである。
ゲルソンはこの考えに賛成しなかったが、 患者と親しい医師たちの説得に押され、 注意深く患者の観察を続けながら、 結果的には1回に半分の卵の黄身を、 週に2回だけ食べることを許可した。
ところが、 患者が黄身を食べ始めると、 間もなく、 腫瘍のある乳房が発赤し始め、 明らかにがんの活動が活発化していることがわかった。 ゲルソンは、 すぐに黄身を食事から外すように指示し、 患者がそれに従うと、 乳房の色は正常に戻り、 症状も落ち着きを取り戻したのである。
その数週間後、 3人の医師らは、 代わりに生肉のみじん切りを患者に与えるようにとゲルソンに言ってきた。 その通りにすると、 黄身の時と同じことが起こり、 これも食事から除外することになった。 そして次は、 バターを入れるように言われたが、 やはりがんが悪化したために、 これも除外するに至った。
この後、 ゲルソンは、 どのような種類の油脂も患者に与えることを禁止し、 それに従った患者は、 2〜3ヶ月のうちに乳房の腫瘍を消化し、 その後、 健康を取り戻したという。
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必要量をなんらかの手段で、必須脂肪酸の必要性。 |
マックス・ゲルソン医師自身の著書、 『マックス・ゲルソン がん食事療法全書』 (徳間書店) には、 油脂類の摂取を支持するような記述が無い。 すべての油脂類が 「禁ずべきもの」 として示されている。 それは、 すでに述べたような経験がいくつもあったからだ。
しかし、 本書を記したゲルソン自身は、 この食事規則が完璧なものであるとは思っておらず、 もっと改善すべき点があると考えていた。 とくに、 患者の健康状態をより良く保ち、 治療効果をより高めるためには、 ある種の必須脂肪酸が必要なはずだと考え、 これをどのように補うべきかを研究していた。 それまでのゲルソン療法で患者が食べていた、 野菜や果物からは、 十分な必須脂肪酸が摂取できないと感じていたからだ。
油脂類を構成する成分は、 さまざまな種類の脂肪酸という栄養成分である。 脂肪酸には、 大きくふたつのグループがあり、 飽和脂肪酸と、 不飽和脂肪酸とに分けられる。 必須脂肪酸は、 このうちの不飽和脂肪酸に属するもので、 たとえば、 リノール酸というものがよく知られる。
脂肪酸の前に 「必須」 と付くのは、 これは人体内では合成して作り出すことができず、 食事で摂取しなければならない栄養成分だからだ。 したがって、 ゲルソンが考えていたように、 必須脂肪酸と呼ばれる脂肪酸類は、 必要量をなんらかの手段により患者も摂取する必要があった。
ちなみに、 かつて患者が試して症状を悪化させたバターには、 飽和脂肪酸が多く含まれている。
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亜麻仁油の導入、初めての良好な結果。 |
ゲルソンは、 ありとあらゆる種類の油脂類を患者に与え、 研究を続けた。 たとえば、 べに花油、 ひまわり油、 オリーブ油、 アーモンド油、 ナッツ類から作られた油、 コーン油、 無塩生バターを試した。
ところが、 やはりどの油脂類も、 かつての患者が経験したのと同様に、 がんの活動を活発化させることになり、 患者の食事から除外せざるを得なくなった。
そして、 ゲルソンは、 ちょうど 『がん食事療法全書』 を書き終えた1958年、 ドイツ人の栄養学者ヨハンナ・ブドウィグ女史 (Johanna Budwig,Ph.D.) の研究と遭遇する。 彼女は、 ノーベル賞に7度のノミネート経験がある脂肪学者で、 がん患者の食事に亜麻仁油 (フラックス・シード・オイル) を使うことをすすめており、 がん研究者は患者の脂質代謝に注目するべきであると主張していた。
ゲルソンは、 早速、 患者に亜麻仁油を注意深く与え始めた。 そして、 それまで失敗続きだったこの試みは、 亜麻仁油で初めて良好な結果を得られたのである。 すでに腫瘍が消滅していた患者は、 新しい腫瘍を発生させず、 また、 まだ腫瘍が残っていた患者でも、 その腫瘍が再び成長するようなことは無かった。
もっと大きな発見は、 それまで一切の油脂類を与えてこなかった患者たちよりも、 亜麻仁油を食事に加えた患者の方が、 腫瘍の縮小スピードが速くなったことである。
こうして、 ゲルソン療法にはその後、 亜麻仁油が治療手段のひとつとして加えられることになったのである。
亜麻仁油にもっとも多く含まれる脂肪酸は、 必須脂肪酸のなかでもα-リノレン酸と呼ばれるもので、 別名オメガ3系必須脂肪酸と言われる。
亜麻仁油には、 少なくともこのα-リノレン酸が約40〜50%以上含まれており、 たとえばリノール酸は15〜20%ほどしか含まれていない。 この比率が異なると、 がんに対する影響が逆方向に変わる。
したがって、 α-リノレン酸が少なく、 リノール酸の含有量が多い、 大豆油、 ゴマ油、 グレープシード油、 それからオレイン酸の多いオリーブ油などは、 ゲルソン療法では使用せず、 これらを含む食材、 大豆、 ゴマなども除外されるのである。
(Medical Nutrition 83号より)
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