教育とサポートがある統合医療

 <第6回> ゲルソン療法と組織損傷症候群(TDS)
 食事・栄養・解毒・通常療法の統合/ゲルソン・インスティテュートの実例から

 ジャーナリスト 氏家京子

 ゲルソン療法の特徴のひとつに、 徹底したナトリウム (塩) 制限がある。 自然食や栄養療法に少しでも関心を持つ人は、 "ゲルソン博士が禁じたのは 「化学合成塩 (Na Clの食卓塩)」 ではないのか? だから 「自然塩 (自然海塩や岩塩)」 なら控えめに使っても良いのでは?"と受け止める傾向にある。 しかし、 ゲルソン博士は、 野菜に含まれているナトリウム以外、 どのようなかたちの塩分をも使用するのを禁じた。 また同時に、 食材中に比較的多くのナトリウムが含まれる場合は(魚介類、海藻、海草など)、 その食材の摂取自体を禁じた。 今回は、 このナトリウム制限の根底にある組織損傷症候群について触れたい。


 正常な機能を保つために必要な細胞内外のミネラルバランス。  

組織損傷症候群は、 英語では 「ティッシュー・ダメージ・シンドローム (Tissue Damage Syndrome)」 (以下、 TDSとする) と呼ばれる。 これは、 発癌物質を含めたさまざまな毒物や汚染物質に細胞が曝され、 その結果、 細胞内外のミネラルバランスが崩れることにより、 細胞が水ぶくれを起こし、 その機能を正常に保てなくなる状態を示す。

TDSが正式に活字に残るようになったのは1978年あたりからで、 フリーマンW.コープ医博 (Freeman Widener Cope, 1930-1982) による。 コープ博士は、 現代超分子生物学の先駆者で、 生物物理学者として塩と水の関係を研究した。 残念ながらマックス・ゲルソン博士は1959年に他界しており、 コープ博士はゲルソン亡き後TDSの研究を始めたことになる。 したがって、 ゲルソン博士は、 組織損傷症候群が定義され、 研究が重ねられる以前に、 この理論を臨床経験から知っていたことになる。

コープ博士は、 1978年に記し、 同年Physiological Chemistry and Physics (生理化学と物理学) ,Vol.10 No.5に掲載された"A Medical Application of the Ling Association Induction Hypothesis: The High Potassium Low Sodium Diet of the Gerson Therapy"(リン・アソシエーションによる仮説の医療への応用:ゲルソン療法の高カリウム-低ナトリウム食)の中で、 ゲルソン療法のナトリウム制限を好評価し、 以下のように述べている。

「ゲルソン療法の高カリウム-低ナトリウム食は、 ヒトの進行したがんの多数のケースを治すことが、 実験で観察されている」。

コープ博士は、 この文章のなかで 「治す」 という言い回しを意図的に繰り返し用いた。 また、 ゲルソン療法では、 塩分制限によりナトリウムの摂取量を可能な限り抑えながら、 一方ではカリウムを多く含む野菜を主食にしてカリウムの摂取量を増やし、 さらにカリウム溶液をサプリメントとして摂るため、 コープ博士はこれを'高カリウム-低ナトリウム食'と記した。

因みに'リン・アソシエーション'の'リン'とは、 1969年に 「能動輸送によって細胞内のナトリウムをカリウムに入れ替えることができる」 ことを証明したリン博士 (G.N.Ling) のことである。

では、 なぜ高カリウム-低ナトリウム食は、 がんを治す過程で強力な武器になるのだろうか?


 細胞の損傷が引き起こすナトリウムの流入と細胞浮腫。  

まず、 人間に限らず全ての生物は、 その身体を構成する細胞の一つひとつが健全に生きていなければ、 当然それらからなる生体全体も最適な健康を維持できないものである。 これは、 誰でもが納得することだろう。

そして、 細胞が健全に生きるための条件のひとつに、 その内外のミネラル (電解質) バランスが相応しい状態に維持されている必要がある、 という事実がある。 これは、 日本の高校生が 「生物氈v の最初の授業で教えられることだ。 (※ 「生物氈v の学習参考書は、 一般の書店でも図解入りで読みやすいものが2000円程度で入手できる。)

ところが、 がんをはじめとする慢性的な変性疾患になっている患者の多くは、 理由はさまざまだが、 すでに細胞レベルでの損傷が始まっており、 細胞の機能が低下している。 だから、 もし、 なんらかの治療によって細胞機能を正常化させることができなければ、 その病状が期待するほど改善しなくても当然、 自然、 ということになろう。

細胞の損傷は、 前にも述べたとおり、 毒物や汚染物質に細胞が曝されることによって始まることが多いとされる。 すると次に何が起こるのか。 ミネラルバランスの観点から見れば、 細胞内へのナトリウムの流入が進行する。

健全な細胞の内と外とでは、 細胞膜を通して、 いつもミネラルバランスが最適であるようにミネラル類の交換が行なわれている。 健康な成人の細胞の場合、 細胞内では比較的カリウムが多く優位であり、 逆に、 細胞外ではナトリウムが多く優位になっている。 (※量の多少は、 あくまで正常基準値からみた比較とする。)

この細胞内外のナトリウムとカリウムのバランスが正常に保たれていることが、 細胞の健全な機能には不可欠なのである。

細胞機能が正常なとき、 過剰なナトリウムを細胞外に排出させることは、 容易だが、 細胞に損傷があるとこれが難しくなる。 これは、 ナトリウムを細胞外へ出すためには、 ある程度のエネルギーを必要とするからだ。 損傷を受け始めた細胞には、 そのときに必要なエネルギーを作り出す能力さえ失われ始めている。 そのため、 損傷を受けた細胞は、 次第にカリウム優位の細胞内ミネラルバランスを維持できなくなり、 ナトリウムがどんどん細胞内に入ってきてしまうという悪循環に陥るのである。

皮肉なことに、 細胞内にナトリウムが過剰になってくると、 それに反比例するように、 カリウムが細胞外へと追い出されていく。 そして、 カリウムが細胞外に出るときには、 受動輸送といって、 エネルギーを必要としない。 したがって、 細胞内のナトリウム優位がどんどん進行する一方になる、 という結果を生む。

細胞内がナトリウム優位になると、 今度はそのナトリウム濃度を薄めるために細胞は水を取り込み始める。 そして生じるのが細胞浮腫 (水腫) だ。 こうなると、 私たちが生きるためのエネルギーを細胞内で作り出すことが本当に困難になる。 患者の細胞レベルで浮腫が進むと、 患者は体力の低下を実感するようになる。


(Medical Nutrition 78号より)


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