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<分子標的療法と免疫療法> 標的分子を狙い撃ちするピンポイント療法。
統合医療ビレッジ本院院長・嶋本隆司
従来の抗がん剤は殺細胞効果が強い反面、がん細胞も正常細胞も一緒に叩いてしまうという欠点があった。それに対し、新しい分子標的薬は目標とする標的分子だけを狙い撃ちする。一方、もともと私たちの体がもっている免疫力を活かした免疫療法があり、分子標的療法と免疫療法両者の特徴持つ療法も現れている。これらの療法の新しさは副作用が少なく、患者さんに優しいオーダーメード的という点である。
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加速する臨床的な分子標的治療法の開発。 |
私たちの体は約60兆個の細胞の集まりです。 細胞は古くなったら新しいものへと生まれ変わりますが、 個々の細胞は勝手に自己の複製を行なっているわけではありません。 細胞の核にある遺伝子 (DNA) が、 複製のつくりすぎや複製エラーが起こらないように規則正しくコントロールしているからです。 ところが何らかの原因で遺伝子に傷がつきコントロールがきかなくなると、 細胞は勝手に分裂を繰り返し、 自己の複製を無限に作りはじめます。 これが 「がん細胞」 です。
1980年代より急速に発展してきた分子生物学的手法を用いて、 がん細胞の生物学的研究が飛躍的に進んできました。 このことが21世紀に突入した現在、 がん治療における新しい標的分子候補の出現をもたらし、 臨床的な分子標的治療法の開発を加速させることになりました。 がん細胞が増殖するためのアクセル役として重要なものの一つにチロシンキナーゼと呼ばれる酵素があります。 この酵素は正常細胞では細胞に刺激が加わったときだけ活性化して、 必要に応じた細胞増殖を促すのですが、 がん細胞では常に活性化しており、 いわばアクセルを踏みっぱなしの状態で、 無秩序に細胞が増殖してしまっています。 このチロシンキナーゼを特異的に阻害する薬物として、 最も一般的な分子標的治療のツールである小分子化合物がいくつか開発されています。 すなわち慢性骨髄性白血病に対するグリベックや、 肺がんに対するイレッサといった薬剤です。 従来の抗がん剤は殺細胞効果が強い反面、 がん細胞も正常細胞も一緒に叩いてしまう絨毯爆撃のような攻撃を行なっていました。 それに対して、 これらの分子標的薬は目標とする標的分子だけを狙い撃ちする、 いわばピンポイント攻撃と言えます。
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分子標的療法と免疫療法の両者の特徴をもつ治療法特異的抗体療法。 |
一方、 私たちの体には異物を排除する働きがもともと備わっています。 これを 「免疫」 といい、 その担い手は血液中の白血球です。 免疫にはNK細胞を中心とした自然免疫と、 T細胞、 B細胞を中心とした獲得免疫があります。 免疫のしくみの最初の段階では自然免疫チームが働きます。 しかし自然免疫の力だけではがん細胞の排除には不十分なことが多く、 この場合、 獲得免疫が働きだします。 このような私たちが元来持っている免疫力を強化してがん治療に役立てる新しい治療法ががん免疫療法です。 免疫療法にもさまざまな種類があり、 非特異的免疫療法としてのサイトカイン療法、 NK細胞療法、 活性化リンパ球療法、 特異的免疫療法としての樹状細胞療法などがあります。
また分子標的療法と免疫療法の両者の特徴をもつ治療法として特異的抗体療法があげられます。 この治療法は、 がん細胞の表面にあるさまざまながん抗原を標的とした治療です。 すなわち、 がん細胞の表面に特異的抗体が結合すると、 抗体が結合したがん細胞は、 いわば目印がついた状態となり、 体の中にもともと備わった免疫機構により破壊されてしまいます。 これには悪性リンパ腫に対するリツキサンや乳がんに対するハーセプチンといった薬剤があげられます。
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【症例1】 |
最初の症例は68歳の女性で、 肺癌および転移性脳腫瘍の患者さんです。 以前にイレッサを使用していたことがありましたが、 その時は肝障害、 膀胱炎といった副作用が出現し中止していました。 その後、 頭痛、 見当識障害、 構語障害といった神経症状が出現し、 頭部MRIで多発性の脳転移を認めました。 イレッサと活性化リンパ球療法の併用療法を行なったところ、 これらの神経学的所見は著明に改善し、 副作用もほとんど見られず、 腫瘍マーカーも正常化しました。 脳転移に対して、 どちらの治療法が効いたかは不明ですが、 イレッサの副作用も出現せず、 順調な経過を辿ったのは両者の併用による効果であったと思われます。
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【症例2】 |
次の症例は69歳の女性で、 悪性リンパ腫の患者です。 化学療法に対する拒否反応が強く、 診断されてから約半年間放置していたため、 初診時には全身の著明なリンパ節腫脹を認めました。 内視鏡検査でも食道から十二指腸にかけての消化管に無数のリンパ腫病変が及んでいました。 ご本人と相談した結果、 分子標的薬であるリツキサンと活性化リンパ球療法の併用を行ないました。 抗がん剤による副作用を起こすことなく、 全身のリンパ節はほとんど触知しなくなりました。 悪性リンパ腫は抗がん剤の感受性が高い腫瘍なので、 通常は抗がん剤の治療を避けることが出来ません。 しかし、 この症例のように、 分子標的療法と免疫療法の併用でも抗がん剤をしのぐような治療効果が得られる可能性も考えられます。
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<今後の展望> |
従来、 がんの治療は手術、 抗がん剤、 放射線療法のいわゆる三大療法が中心でした。 これに対して分子標的療法も免疫療法も最近になって登場してきた新しい治療法であり、 まだ発展途上の治療法です。 したがって、 どのようながんの患者さんにどのような治療法が最も適しているかを良く検証していく必要があります。 しかしながら、 この両者に共通することは、 いずれも副作用が少なく、 患者さんに優しい、 オーダーメード的な治療という点であり、 患者本位の治療の確立に重要な役割を担っていくものと思われます。 統合医療というのは、 単に現代医療と伝統医療の統合というだけでなく、 先端医療同士をうまくマッチさせていく側面もあるのです。
(Medical Nutrition 63号より)
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