ニュートリゲノミックス−新時代の栄養学の幕開け

 糖尿病と生活習慣病(1)

       医療ジャーナリスト 赤木三郎

 インスリン分泌による標的細胞への情報伝達とその生理活性。
糖尿病は、 文字通り、 尿に糖が出る病気である。 尿は血液が腎臓で濾過されさらに尿細管で再吸収や分泌を受けて作られる。その尿に糖が出るということは、血液中の糖濃度が必要以上に高いことを意味しており、 そのため、 末梢神経、 網膜、 腎臓等が傷害を受ける。 糖のバランスを司るインスリンの働きを見てみよう。


 主にインスリンによって調節されているグルコース(糖)の出納バランス。  

糖尿病とは、 本源的には高血糖症のことである。 その診断基準は、 随時血糖値が200mg/dl以上、 空腹時血糖値が126mg/dl以上、 75g負荷試験2時間値が200mg/dl以上である。

糖尿病は、 その原因から 「I型糖尿病」 (膵臓ランゲルハンス島のβ細胞の破壊によるインスリン分泌の低下) と 「II型糖尿病」 (インスリン分泌不全や、 肝臓や筋肉におけるインスリン作用傷害によるインスリン抵抗性)、 それ以外に、 特定遺伝子の異状による糖尿病、 妊娠にともなう糖尿病、 などに分けられる。

インスリンは、 膵ランゲルハンス島のβ細胞内の粗面小胞体でプロインスリンとして生成され、 ゴジル装置に送られて分泌顆粒となり、 分泌顆粒中の酵素によってインスリンとC-ペプチドに切断され、 血中に放出される。 エネルギー代謝の中心であるグルコースの血中及び細胞中の濃度は厳密に調節されている。 グルコースを放出する肝臓と、 それを取り込む筋肉及び抹消組織によって成り立つグルコースの出納バランスは、 主にインスリンによって調節されている。 すなわち、 食事で糖 (グルコース) が吸収されると、 直ちにインスリン分泌が亢進され、 そのため肝臓の糖放出率が激減して、 筋肉及び抹消組織の糖取り込み率が上昇する。 その結果、 食後上昇した血糖値は約2時間で元に戻る。


 インスリン分泌の最初のトリガー (引き金) はグルコース。  

β細胞におけるインスリン分泌と標的細胞でのインスリンの働きについて見てみよう。 (1)水溶性のグルコースはリン資質を主成分とする細胞膜を通過できないため、 細胞膜の2種類の輸送体ファミリー、 能動輸送系と受動輸送系によって細胞に取り込まれる。 能動輸送系 (SGLT1) はNa+輸送と共役して細胞内外のグルコースの濃度差に拘わらず取り込む。 受動輸送系では濃度差に従ってグルコーストランスポーター (GLUT) が取り込む。 GLUTファミリーには6種あり、 いずれもタンパク質の両末端を細胞内に出し、 膜を12回貫通するアミノ酸配列もち、 膜を貫通している部分でグルコースを認識して通過させる通路構造を持っている。

(2)膵臓β細胞の細胞膜における反応は、 次のようなものである。 まずグルコースはGLUT2によってβ細胞内に取り込まれる→グルコースキナーゼ (GLUK) によってリン酸化 (活性化) される→細胞質の酵素系による解糖系を経てミトコンドリアに入る→酸化されてATPが合成される→細胞内のATP/ADP比が上昇する→ATP感受性K+チャネルが閉じる→K+の濃度変化により細胞膜に膜電位の減少と脱分極の変化が生じる→細胞内外のカルシウム濃度差が大きくなる (内側は外側の数十万分の一) →電位依存性カルシウムチャネルが活性化され細胞内にカルシウムが流入する→その刺激を伝えるタンパク質のカスケードを経てインスリンが細胞の外へ放出される。 このようにインスリン分泌の最初のトリガー (引き金) はグルコースの存在にある。


 多彩な生理活性を展開させるインスリン。  

(3)放出されたインスリンは組織の細胞膜に存在するインスリン受容体 (IR) にキャッチされインスリン結合受容体となり、 インスリン受容体基質 (IRS) を活性化する。 IRSは、 プロテインキナーゼの働きをもち、 細胞内でタンパク質をリン酸化して、 さらに次のタンパク質をリン酸化するという活性のカスケードを通して、 多彩な生理活性を展開させる。 その1つに、 細胞質のミクロソーム膜に存在するGLUT4を表面の細胞膜に転座させ、 糖の取り込みを促進させ、 さらに脂肪を分解し、 糖新生を抑制し、 それらの総合的な結果として血糖の減少を起こす。 また、 タンパク質合成の活性化、 アポトーシスの抑制、 筋肉や肝臓細胞の分化を促すなど多岐にわたる働きを示している。 GLUT4の遺伝子の発現は、 生理的条件やホルモンによる組織特異的なパターンで影響を受け、 絶食や高脂肪食や白色脂肪細胞における遺伝子の発現を抑制し、 運動や甲状腺ホルモンは筋肉細胞における遺伝子発現を促進する。


(Medical Nutrition 65号より)


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