ニュートリゲノミックス−新時代の栄養学の幕開け

 <高血圧と生活習慣病> PPARの作用により高脂血症を解明。

       医療ジャーナリスト 赤木三郎

 高脂血症とは、 血清中の脂質、 中性脂肪 (TG)、 コレステロール、 リン脂質、 遊離脂肪酸などが高い病態のこと。近年の研究で高脂血症に関して、PPAR(ペルオキシソーム増殖活性化受容体)の存在が注目されている。遺伝子レベルでの高脂血症の解明に果たすPPARの役割をさぐってみた。


 善玉、悪玉コレステロールにはそれぞれの役割があり、そのバランスが重要。  

高脂血症は虚血性心疾患や脳血管障害を引き起こす 「動脈硬化」 の誘導要因として知られている。 TGもコレステロールも疎水性分子であり、 血液中ではそのままでは存在できず、 アポ蛋白質とリン脂質がこれらを包み込んだ 「リポ蛋白質」 という大きな複合体が形成されて、 はじめて行動することができる。 つまり高脂血症とは、 「高リポ蛋白質症」 のことである。

リポ蛋白質は、 下記のように大きく4つに分けられ、 それぞれの特徴を有する。 まずコレステロールについて見てみよう。

(1)コレステロールはリポ蛋白質の成分として血液中に運搬され、 細胞膜にある特異的な受容体に取り込まれて利用されるが、 各種のリポ蛋白質は組織や血液中で酵素作用を受けたり、 お互いの成分の脂質やアポ蛋白質を交換してダイナミックに行動する。

(2)コレステロールは全ての細胞で合成されるが、 特に肝臓と小腸で最も多くのコレステロールを血中に供給している。 グルコースと脂質代謝物であるアセチルCoAがコレステロール合成の出発材料であり、 コレステロール1分子の合成には、 アセチルCoAの18分子、 ATPの15分子が消費され、 細胞質の小胞体にある20数種類の酵素反応が作用している。 グルコース1分子から2分子のアセチルCoAしか合成されないことを考えると、 コレステロールは実に贅沢な産物であり、 食料不足の時代にはコレステロール過剰は絶対にありえなかった。

ちなみに60kgの体重の人には平均して9kgの中性脂肪が蓄積されているが、 これが完全燃焼してエネルギーに変換されるとすると、 81,000kcalとなる。 これは、 実に50日分の食事に相当するカロリーである。 中性脂肪は最も効率のよいエネルギー貯蔵組織と言える。

(3)コレステロールからは生体にとって重要な働きを持つステロイドホルモン、 ビタミンD、 胆汁酸などが産生されている。

(4)コレステロールで、 よく善玉、 悪玉の区別がなされる。 HDLは、 体の余ったコレステロールを回収して肝臓に戻すことから善玉コレステロールと呼ばれ、 LDLは細胞にコレステロールを送り込むことから悪玉コレステロールと呼ばれている。

しかし、 生命の進化結果として、 絶対的に体に悪い成分が存在すること自体あり得ない。 LDLもまた体にとって重要な役割を果たしている。 例えばLDL受容体は血中のLDL濃度を下げる働きがあり、 また細胞内に取り込まれたコレステロールはフィードバックによりコレステロール合成を下げることで動脈硬化を防止しているのである。

ただ、 LDL受容体に変異が起きると、 逆に血中のLDL、 コレステロール濃度が上がり、 フィードバックによる合成の抑制が起きず動脈硬化が進展することになる。 要は、 善玉、 悪玉コレステロールといってもそれぞれの役割を果たすための存在であり、 そのバランスが重要であることは言うまでもない。


 最も高い頻度で出現する遺伝病「家族性高脂血症」と脂肪組織。  

(1)高脂血症と遺伝要因との関係で注目されているのが、 「家族性高脂血症」 である。 これは人種を問わず、 世界中で最も高い頻度で出現する遺伝病である。 常染色体の優性遺伝を示し、 ヘテロ (二つある) 型の対立遺伝の片方にこの異常遺伝子をもつ人は500人に1人は存在しており、 血中のLDL濃度も正常値の2〜3倍も高く、 30代から心筋梗塞を高率で発症させる。

なお、 2つの対立遺伝子がともに異常な遺伝子であるホモ型は100万人に1人という少ない確率であるが、 10代で心筋梗塞を発症させる。 家族性高脂血症は、 異常の起きる遺伝子の部位によって症状が異なる。 主なものが、 受容体の合成阻害、 ゴルジ体への輸送阻害、 LDL結合の阻害、 小胞体における細胞内への取り込み阻害といったことであり、 これらが高脂血症の誘引因子となっている。

(2)近年の研究で、 高脂血症に関しては、 脂肪細胞の分化の促進や機能に広範に作用する受容体としての 「ペルオキシソーム増殖活性化受容体」 (PPAR) の存在が注目されている。

PPARは受容体であると同時に、 転写因子としても働いている。 受容体としては、 ステロイドホルモンや甲状腺ホルモン、 脂溶性ビタミンなどの核内受容体スーパーファミリーに属しており、 (i) 脂肪消費臓器に幅広く発現して脂肪酸の合成・輸送・分泌・ATP産生などに関わっているPPARα、 (ii) 脂肪細胞に特異的に発現して脂肪細胞の分化・肥大化に関わっているPPARγなどがある。

(3)脂肪細胞は、 肥満防止のレプチンや、 インスリン抵抗性をもたらすTNF-αをはじめ、 200種以上の多彩な生理活性分子を分泌する最大の内分泌細胞である。 この脂肪細胞のPPARのもつ生理作用は、 脂質代謝、 肥満、 糖尿病などをはじめ非常に広範多岐にわたっている。 PPARの特徴は、 200種以上の多様なペルオキシソーム増殖剤と結合できることであり、 また標的遺伝子の数が100種以上も存在していることである。

なお、 PPARが遺伝子の転写因子として作用する時は、 ビタミンAの代謝物である9-シス-レチノイン酸の受容体RXRとヘテロ二量体 (PPAR-RXR) を形成し、 DNAに結合することで、 標的遺伝子の転写を活性化または抑制して調節している。 いずれにせよ、 PPARの働きは、 遺伝子レベルでの高脂血症の解明にとって今後大いに注目されるところである。


(Medical Nutrition 64号より)


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