ニュートリゲノミックス−新時代の栄養学の幕開け

 「第2回国際ニュートリゲノミックス」開催さる。
 "ニュートリゲノミックスから栄養システムバイオロジー"に焦点。

 医療ジャーナリスト 赤木三郎

 去る11月6日〜7日の2日間、 オランダはアムステルダム市で 「第2回国際ニュートリゲノミックス」 が開催された。 地元オランダをはじめ、 世界から16カ国のアカデミィー、 行政機関、 産業界の代表が130名ほど参加したが、 日本からも10数名ほどが参加したようである。 大会を主催したのは、 60年の歴史をもち、 2年前にニュートリゲノミックスの研究を立ち上げたオランダの 「NTO栄養食品研究所」 である。


 研究のスピードアップへ、ヨーロッパのコンソーシアム動く。 

「NTO栄養食品研究所」は、 オランダのワーゲニンゲン大学・研究センターと密接な関係を有するもので、 この二つの組織が中心に、 オランダにおけるニュートリゲノミックス研究をリードしている。 さらに、 これらを中核に、 オランダ、 ヨーロッパ、 米国の民間企業を含む大学・研究組織がコンソーシアムを組んで様々な角度からのニュートリゲノミックスに関する総合的な研究を進めている。 コンソーシアムの目的は、 研究成果あるいはデータベースを加盟組織で共有しあうことで研究のスピードアップを図ろうとするものである。

これは明らかに米国を意識した組織である。米国は、 ゲノム解析をリードし、 さらにその上に、 次世代の研究分野であるプロテオミックス研究にも莫大な研究費用を投入している。 既にニュートリゲノミックスの分野でも、 官学産によるダイナミックで戦略的な研究開発が進んでおり、 実用化に向けてコンソーシアムを組んだベンチャー企業が続々と誕生している。 こうした物量で勝る米国勢に対抗するために組織されたのが、 ヨーロッパのコンソーシアムである。

昨年の第1回大会が、 ニュートリゲノミックスの研究開始を宣言する大会であったのに対して、 本年はこれを引き継いでさらに具体的な肉付けを図る意味合いを持ったものであった。 大会は、 "ニュートリゲノミックスから栄養システムバイオロジー"に焦点を当て7つのセッション別にレクチャーがなされた。 (1)最先端の挑戦、 (2)病気予防と健康促進 (一般問題)、 (3)病気予防と健康促進 (ガンと消化器官の健康)、 (4)病気予防と健康促進 (代謝関連の問題)、 (5)個人別の栄養、 (6)ニュートリゲノミックス (コミュニケーションと教育への挑戦)、 (7)バイオ活性のプロファイリングと発見−といったものである。

それ以外にも、 3つの分科会に分かれて、 特別分化討論会が行われた。 (1)ニュートリゲノミックス (医薬品と栄養品との間に失われたもの)、 (2)ヨーロッパにおけるニュートリゲノミックス (Nugoの発展)、 (3)ニュートリゲノミックス (出現した科学を全ての関心者に伝達するために) といったもので、 これを見ると主催者側の意図がおおよそ理解できよう。


 緒につくか日本のニュートリゲノミックス研究。 

昨年10月、 東京大学農学部に1つの寄付講座が開設された。 この講座は、 ILSI加盟20社以上が出資したもので、 「機能性食品ゲノミックス」 をテーマに、 食品の遺伝子レベルでの解析と評価、 疾病の予防効果を持つ機能性食品の開発を目指すようである。 これを受けて、 東大大学院農業生命科学研究科の加藤助教授が今回のニュートリゲノミックス国際大会で日本を代表する形でプレゼンテーションをおこなった。

日本は過去に、 世界に先駆けて 「機能性食品」 という概念を提唱し、 それが現在の 「特定保健用食品」 (特保) につながっている。 しかし、 特保は、 当時の機能性食品の概念とは本質的に異なるもので、 むしろ、 そうした概念を実際の食品開発研究に生かし産業化を進めたのは、 日本ではなく欧米社会であった。 気が付いてみれば、 「本家」 の日本は大幅な遅れをとっており、 これに危機感を強めたバイオ・食品産業界は、 バイオテクノロジー立国を目指す日本政府に圧力をかけ、 機能性食品の普及に向けた環境整備に力を入れ始めていることは承知のとおりである。

これら一連の動きの一環として東大の寄付講座の開設が位置づけられる。 世界の潮流から大きく水を空けられた感がする日本のニュートリゲノミックス研究にとって東大の研究は将来の大いなる1歩になることに違いなく、 その成功を多いに期待したい。


  ニュートリゲノミックスの具体化のキーワードは"個":個人別医療―個人別医薬 

 ―個人別栄養 (食品) の開発。
ニュートリゲノミックスは、 謂うまでもなく、 ゲノム解析、 遺伝子の転写、 プロテオミックス、 ゲノム代謝、 といった遺伝子と生体内の関連研究が前提となって進められるべきものである。 さらに、 ゲノムに発現する一塩基多型 (SNPs) の同定とその薬理的、 毒性的、 機能性解析とバイオマーカーの解析とそれらの累積的なデータベースの蓄積が不可欠である。

また、 遺伝子を対象とすることから、 社会的容認のためには倫理上の配慮が求められるが、 これらは、 啓蒙と法制化に向けた研究が進められており、 将来は統合的にニュートリゲノミックスとの連携が図られていくものと思われる。
 欧米社会では、 ニュートリゲノミックスを応用した商品として機能性食品と組み合わるといった認識が進んでいる。 それは、 「第3世代の機能性食品」 としてのニュートリゲノミックス商品の開発というものである。

その商品系統は、 歴史的には 「サプリメント→機能性食品→ニュートラシューティカルズ→ニュートリゲノミックス」 といった発展の軌跡を描いてきたが、 これからの社会はこれらが並列的に存在する時代に入っている。

但し、 従来との大きな違いは、 消費者を"一般的なマス"として捉えるのではなく、 "個"として捉える側面が強調されることである。 消費者の栄養と健康、 病気、 予防についての一般知識は高度化しており、 ありきたりの商品では満足できない層が形成されている。 医療における 「個人化医療」 と同様に、 健康食品における 「個=個人化」 を求める層の形成である。 これは、 これからの時代、 健康と予防のための食品・栄養の中心的概念にものであり、(健康)食品の開発とマーケテングにおけるキーワードの一つになる。

消費者は、 自分自身の体質 (遺伝子的違い) と食生活を含めた環境条件 (生活習慣) を判定することで、 病気発症リスクの判定と予防に必要な食事 (食品、 栄養素) によって健康を維持回復することを望むようになる。 それは、 「一般的な推論に基づく食」 ではなく、 「科学的エビデンスに基づく個人レベルでの差別化された食」 であることは言うまでもない。

次回はニュートリゲノミックスについて具体的に見ることにする。


(Medical Nutrition 58号より)


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