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ゲノム競争の主戦場はタンパク質の構造解析。 医療ジャーナリスト 赤木 三郎
「生命の万能素材」たんぱく質。プロテオミックスと呼ばれる、たんぱく質の解明はゲノム解析とは比較にならないほど複雑である。田中耕一フェローがノーベル化学賞を受賞した「タンパク質の質量分析法」 で明らかなように、もともと日本はこの分野では世界をリードしてきた。たんぱく質構造解析の最前線を追ってみた。
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世界をリードする日本のプロテオミックス。 |
ゲノムは生命活動の全設計図であり、 その本体は細胞の核内に蔵われているDNAである。 そして生体の中で、 実際に生命活動を行っている分子の本体が 「タンパク質」 (Protein) である。 タンパク質の語源はギリシャ語の 「proteios」 (第一のもの) にあり、 まさに 「生命の万能素材」 の意味をもっている。 このタンパク質は、 「DNA→RNA→ (アミノ酸) タンパク質」 という順序を経て生成される。 これは、 クリックらによって提唱された生命発現原理であり、 「セントラル・ドグマ」 と呼ばれている。
DNAは、 「エクソン」 (遺伝子の部分) と 「イントロン」 (ジャンクDNAと呼ばれるが、 生命の進化の過程で不要になったものか、 まだ解明されていない未知の機能か) からなっている。 まず、 核内でDNAの塩基配列がRNAに転写され、 余分なイントロンの部分をはずしてmRNA (伝令RNA) が作られる。mRNAは、 核膜から細胞内に出てアミノ酸の合成工場である 「リボソーム」 に送られる。 mRNAに写し取られた3個の塩基配列が1コドンを作り、 特定のアミノ酸1個を表現する。 リボソームでは、 mRNAのコドン通り指示されたアミノ酸が順番にtRNAによって運ばれ、 次々に結合して数珠繋ぎに長く伸びてタンパク質になる。 数珠の長さは50個から万単位に及んでいる。 ちなみに、 100個のアミノ酸が結合する時間はわずか5秒程度である。 こうしてできた新生のタンパク質は、 そのままでは機能せず、 DnaK、 DnaJなどの 「シャペロン」 (介添え) 分子によって折りたたまれ、 切断される。 さらに糖鎖やリン酸と結合するなどの修飾作用を受けて、 タンパク質は初めて生命現象に必要な具体的な機能を果たすことができるようになる。
タンパク質の元になるアミノ酸は全部で20種類あるが、 ヒトの場合、 体内で働くタンパク質は10万種にも及んでいる。 この10万種のタンパク質が設計図通りに、 必要なときに、 必要な場所で、 規則正しく作られ、 働らくことでヒトの生命が維持されている。 そしてこの分子のメカニズムが狂うと、 生命維持活動が傷害され病気などが発症するわけである。
我々の体は、 水分を除く残りの60%はタンパク質からなっている。 タンパク質は千差万別であり、 それぞれの組織別の役割に基づいて特有の働きを担っている。 体のタンパク質の集合体は 「プロテオーム」 (Proteome) と呼ばれ、 タンパク質の構造と機能の解明に関する研究を 「プロテオミックス」 という。 タンパク質の解明は、 ゲノム解析とは比較にならない複雑なものである。 なぜなら、 ゲノム解析はたった4つの塩基 (A、 T、 C、 G) を対象としているが、 タンパク質は20個のアミノ酸の組み合わせからできているからである。 しかも構造が複雑で、 3次元の立体構造で1万種はあると想定されており、 さらにそうした分子が複合体を形成し、 最終的には4次元構造になっている。
日本は、 ゲノム解析計画の初期段階で遅れをとったが、 解析の精度の高さでは世界の注目をあびた。 実は、 日本は伝統的に、 生命科学の研究で世界をリードしてきた。 それがプロテオミックスの分野である。 島津製作所の田中耕一フェローがノーベル化学賞を受賞した研究は、 「タンパク質の質量分析法」 であるが、 これはレーザー光線を使ってタンパク質分子をイオン化して取り出すというテクノロジーであり、 これによって特定のタンパク質の解析に対する手掛かりを得ることになり、 プロテオミックスの先駆的な研究開発となったものである。 しかし、 近年では、 欧米諸国が日本のお家芸であったプロテオミックスの分野で力をつけてきている。
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米国はゲノム機能とデータベースを構築。 |
物量作戦に勝る米国は、 NIH (国立衛生研究所) がポストゲノム解析に続くプロジェクトとして、 今年3月に 「エンコード計画」 (ENCODE、 Encyclopedia of Human DNA Element) を立ち上げた。 これは解読されたヒトゲノムに遺伝機能を担う領域を全て書き込むことを目的にしたものであり、 日本も参加している。 従来のヒトゲノム解析計画や、 mRNAの洗い出し、 タンパク質の構造解析 (アミノ酸配列から立体構造まで) といった研究は生命に関与する成分や分子をリストアップする目的であった。 これに対し、 エンコード計画はさらに一歩進め、 それぞれの遺伝子が働く場所、 役割、 その調整機能といった全ゲノムの範囲を網羅し、 立体的に把握することを目的にしたものであり、 最終的にはゲノム機能に関する 「データベース」 (Database) の構築を目指したものである。
日本でも、 2000年の 「ミレニアム・プロジェクト」 で、 2002年〜2005年の間に3000種のタンパク質の基本構造 (αヘリックス、 βストランド) とその機能を解析する計画を立て、 2002年までにNMX(核磁気共鳴) とX線結晶構造解析装置を使って、 約200種類のタンパク質について立体構造の解明に成功している。 しかし、 今やタンパク質の構造解析は、 各国のゲノム競争の主戦場であり、 X線結晶構造よりは小型のX線レーザー装置の開発競争は熾烈を極めている。 それは、 タンパク質の構造解析がそのまま、 特許戦略に直結しているからである。 英国のオックスフォード・グリコサイエンシズ社では、 2002年12月にヒトタンパク質の4000種類について特許出願しており、 特許競争は過熱化の一途をたどっている。 次回は、 ゲノム創薬について述べる。
(Medical Nutrition 56号より)
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