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ポストゲノム解析の戦略目標は「遺伝子栄養」。
医療ジャーナリスト 赤木 三郎
いま、 栄養学の世界で 「ニュートリゲノミックス」 (Nutrigenomics) という言葉が流布している。 ニュートリゲノミックスとは、 「nutrition」 (栄養) と 「genomics」 (遺伝子学) を組み合わせた造語であり、 日本語には 「遺伝子栄養 (学)」 とでも訳される。 中には、 「ゲノム創食」と訳す人もいるが、 これは、 製薬分野で使われている 「Pharmacogenomics」 (ゲノム創薬) との対比で使われている。 しかしここでは遺伝子栄養 (学) を使うことにしたい。 欧米で急速に広まる食品機能研究。 この連載では、 ゲノム技術の進展に伴って変貌を遂げる食品機能研究の動向を紹介する。
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「ゲノム学」を基本に。キーワードは"ゲノミックス"。 |
この二つの用語には、 「ゲノミックス」 (Genomics) という言葉が語尾についており、 「ゲノム学」 (Genomics) を基本においていることが理解できる。 ゲノム学は、 20世の後半に始まったばかりで、 わずか50年の歴史しか持たない新しい分野であるが、 日進月歩の研究で急速な発展を見せている。 「ゲノム」 (genome) とは、 ヒトならヒトという生物が持つ 「遺伝子情報の全て」 を表す言葉である。 これもまた 「遺伝子」 (gene) と 「染色体」 (chomosome) あるいは、 「全体」 (ome) から作られた造語である。
ゲノムの化学的本質は 「DNA」 (デオキシリボ核酸) である。 DNAは、 その生物の遺伝子を書き込んだ 「生命の設計図」 であり、 ヒトでは30億対の塩基配列があり、 A (アデイン)、 T (チミン)、 C (シトシン)、 D (グアニン) という4種類の塩基の組み合わせからなっている。 要するに、 ヒトのゲノムとは、 30億対の全塩基配列のことである。
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わずか50年にして、 生命の全設計の解明に成功。 |
ゲノムの構造の解明から50年後の2003年4月、 国際チーム6カ国による 「ヒトゲノムの解読宣言」 と、 「ゲノム解析の完成版」 が発表された。 人類は、 わずか50年にして、 ついに自分達を形作っている生命の全設計の解明に成功したのである。 これは、 人類史上、 画期的な事件であるといって過言ではない。 共同宣言では、 ゲノム解析の意義を 「地球上の全ての人々がより健康でいられる未来を建設するための重要な一歩を踏み出した」 と高々と宣言している。
また完成版は、 空白領域がわずか180ヶ所 (2005年までに完全解読を予定) で、 30億中の29億の塩基配列を解明しており、 カバー率は99%というものである。 そのエラーは1万塩基に一つで99.99%の精度を誇っている。 これらは年内には論文として発表される見通しである。
また、 最終的なヒト遺伝子の数は 「3万2000程度」 であることが確認された。 これはショウジョウバエの1.4万の約2倍という数であり、 高度な複雑系生命体であるヒトの遺伝子としては意外に少ない数であることに驚かされる。 生命体のもつ不可思議に驚嘆させられる。 いずれにせよ、 今回の完成版よって、 「今後数世紀にわたる生命科学研究の基盤が確立した」 (理化学研究所ゲノム科学総合研究センター、 榊佳之)。
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健康と病気、 病気と薬など分子医学の解明に。 |
ゲノム解析は、 数々の新しい技術の展開を促した。 例えば、 DNAの転写時に1000個に1回程度で塩基の変異が生じるが、 最も多いのが、 「一塩基 (変異) 多型」 (SNPs、 Single Nucleotide polymorphism) である。 このSNPs解析を基にして、 その遺伝子上の位置を決める 「マッピング技術」 や、 SNPsと疾患関連遺伝子などを同定する 「タイピング技術」 などが目覚しく発展している。
既にゲノム研究は、 ポストゲノム解析に焦点が移っている。 当面の目標は、 (1)mRNAを対象とした 「転写」 (transcriptomics)、 (2)タンパク質の構造と機能の解析である 「プロテオミックス」 (proteomics)、 (3)代謝動態の解明のための 「メタボロミックス」 (metabolomics) を縦軸にして、 健康と病気、 病気と薬、 栄養と食事、 分子医学の解明につなげることにある。 これら縦軸にある技術は、 膨大な生物情報を扱うため、 従来型の技術では処理しきれない。 そのために登場したのが、 「バイオインフォマティックス」 (Bioinformatics、 生物情報科学) であり、 生物情報をハイテクコンピューターにより処理するという技術である。
こうした新技術によって、 細胞がある環境から違う環境に移る時の(1)mRNAの発現、 (2)タンパク質の発現、 (3)代謝物濃度の変化などを網羅的に把握することが可能となった。
今、 世界ではポストゲノム解析の戦略目標に、 オーダーメイド医療としての 「ゲノム創薬」、 テイラーメイド食品としての 「遺伝子栄養」 の研究が展開されているが、 それを可能にしているのがこうした新技術である。
次回は、 プロテオミックスについて述べる。
(Medical Nutrition 第55号より)
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