動脈硬化とカルシウム
 神戸大学名誉教授・葛城病院名誉院長 藤田拓男

動脈硬化はカルシウムが動脈にたくさんついて、骨のように硬くなってしまうこと。これもカルシウムパラドックスのひとつで、カルシウムが不足すると骨のカルシウムが減り、血管膜でカルシウムを増加させ、動脈硬化を引き起こす。となれば、動脈硬化の最大の原因はカルシウム不足ということになる。


 骨のようにポキポキ折れるほど硬くなってしまった動脈 

動脈は心臓から全身各部へ血液を送る管で、必要に応じて太くなったり細くなったり伸縮自在です。従って、ゴム管のように軟らかくなければなりません。動脈硬化というのは、軟らかいはずの動脈が硬くなることです。逆に、硬くて体を支えなければならない骨が軟らかくなってしまう病気を骨軟化症といいます。骨軟化症は、カルシウムやリンやビタミンDの不足によって骨のカルシウムが減り、骨の石灰化が不十分になることです。逆を考えると、動脈硬化はカルシウムが動脈にたくさんついて、骨のように硬くなってしまうことです。日本の老年医学の開拓者である尼子富士郎先生が浴風会病院で剖検をしていて、大動脈が骨のようにポキポキ折れるほど硬くなっているのを体験され、その謎を解明するために老人病の研究を志したというのは有名な話です。

折れるように硬い動脈になるにはいろいろな段階があります。コレステロールと動脈硬化の関係は誰でも知っていますが、コレステロールやその他の脂質は血液から血管の壁に入り、線維化と細胞の増殖を起こして、壁を厚くし、血液の通る道を狭くします。そこにカルシウムが付着して血管を硬くするので、動脈硬化の最後の仕上げはカルシウムの仕業なのです。しかし、カルシウムの役割はこれだけではなく、コレステロールが血管に入るずっと前に動脈硬化の最初の段階ですでに始まっているのです。


 高血圧、動脈硬化は一つの糸で結ばれていて、その背景にあるのがカルシウム欠乏 

カルシウムが不足すると、血液中のカルシウム濃度が少し下がり、これが副甲状腺ホルモンの分泌を高め、その働きで骨からカルシウムが取り出され、骨のカルシウムが減ると同時に、血管壁でカルシウムを増加させます。これがカルシウムパラドックスで、カルシウムの摂り方が足らないと、血管のほうで逆にカルシウムが増えるというのが、ちょっとわかりにくいところです。カルシウムが血管壁に入ると平滑筋が収縮し、高血圧になりますが、心臓はいつも強い力で血液を押し出すので、血管壁はその圧力によって細かい傷がつきやすくなります。そうした傷からコレステロールが侵入したり、また、このような傷を治していく時、カルシウムが過剰反応を起こさせ、細胞が集まって増殖するのです。つまりカルシウムがトロイの木馬のように血管の防壁を通り越して、コレステロールを導き入れるのです。高血圧そして動脈硬化は一つの糸で結ばれており、その背景にあるのがカルシウム欠乏で、その表現が骨粗鬆症で、骨粗鬆症と動脈硬化が図で見られるように、同時に起こることが多いのは当然のことなのです。ちょうどカルシウムが骨から血管へ移動するように見えるので、「カルシウム移動説」という説明があるくらいです。脳の働きの大部分が失われ、運動や言葉の障害の起こる脳血栓(脳軟化症)や、一瞬のうちに生命を奪う心筋梗塞の原因が動脈硬化で、それらは脂質代謝異常とカルシウム不足に最大の原因があるのです。

最近、過酸化脂質によってできる遊離基が細胞膜を傷つけることも動脈硬化の一因とされ、抗酸化物質(緑黄色野菜、香辛料などに含まれ、ビタミンEもその一つ)の効果が一部で注目を集めています。ところが、過酸化脂質の作用は、実は細胞膜を傷つけてカルシウムを細胞の中にとり入れてしまうことにあり、カルシウムパラドックスを助長しているのです。カルシウムを充分に摂れば、抗酸化物質の働きを助け、カルシウムを細胞の中に入れず、血管の健康を助けるのです。人の寿命は血管のそれと同じと言われています。健康の維持と長生きの秘訣は、カルシウムを十分に摂取して元気な血管をいつまでも保つことにあるのです。

(Medical Nutrition 36号より)


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