高血圧とカルシウム
 神戸大学名誉教授・葛城病院名誉院長 藤田拓男

日本で患者数は2,500万人を超えると言われている高血圧。ナトリウムの摂りすぎが、その原因というのが一般的だが、本当はカルシウム不足が影響しているという研究結果が報告されている。今回は高血圧とカルシウムの関係について探ってみた。


 高齢化社会を迎え、ますます増える高血圧患者

日本人のかかる病気の中で一番多いのはいったい何でしょうか。風邪をひいたことがないという人はほとんどいないでしょうから、少なく見積もっても、日本人の半分の6,000万人はかかったことがあるでしょう。しかし、赤ちゃんやお年寄りなどの体力の非常に弱い人以外はすぐ治るので、一時的な病気といえます。なかなか治りにくいが、押さえ込むことができます。慢性の病気の中では高血圧が断然トップのようで、患者数は2500万人を超えるようです。加齢とともに血圧は上がるので、高齢化社会によってこれからますます増えてくるでしょう。

歳をとると増えてくる病気は成人病、老人病と呼ばれてきましたが、長年の生活習慣の積み重ねによって起こることを強調して、最近では生活習慣病と呼びます。高血圧は、多くの人にみられることと、動脈硬化、脳卒中など、恐ろしい合併症を起こすことから、生活習慣病の代表選手とみられています。


 カルシウム不足が高血圧を引き起こす

ナトリウムの摂り過ぎではなくてカルシウムの欠乏が高血圧を起こすという研究結果を、アメリカのマッカロンという腎臓病の専門家が20年前に発表しました。マッカロンによると、実際に大勢の高血圧患者のナトリウムとカルシウム摂取について栄養調査を行ったところ、ナトリウムの摂り過ぎではなく、カルシウムの不足している人が多かったというのです。

では、なぜ、カルシウムが不足すると、血圧が上がるのでしょうか。血液は血管の中を強い圧力で流れています。流れる血液の量が増えると、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならなくなり、血管も縮んで狭くなります。硬い鉛でできている水道管ならば水量が増えても同じ太さですが、血管はそうはいきません。血管の外側は平滑筋という筋肉で取り巻かれており、この筋肉が縮むと血管は狭くなり、伸びると広くなります。平滑筋は自律神経の指令で収縮し、自分の力では自由に動かすことができない筋肉です。交感神経は体内の血液を有効に配分するため、血管を縮める方向に働くことが多く、緊張すると顔が青くなるのは、交感神経の働きといえます。逆に副交感神経は血管を広げる方向に働きます。

 ナトリウムの増加がカルシウムを体外へ排出させ、カルシウムの欠乏を起こす

カルシウム摂取量が少ない時、血液中のカルシウムを一定に保たなければ生命が危ないので、副甲状腺ホルモンが出てきて骨からカルシウムを取り出します。これが骨粗鬆症の原因となります。骨から溶け出たカルシウムは、やはり副甲状腺ホルモンの働きで、血管壁の細胞の中に入ります。筋肉は、細胞内にカルシウムが増えると収縮する働きがあるため、平滑筋の細胞内にカルシウムが入ってくると収縮が強くなります。その結果、血管の内腔が狭くなり、血液が通りにくくなり、心臓は今までより強い力で血液を押し出さなければ、全身に血液を送ることができなくなります。これが高血圧です。ナトリウムを摂り過ぎると血液が水分で膨張します。しかし、それよりも体内でのナトリウムの増加がカルシウムを体外へ排出させ、カルシウムの欠乏を起こすことが高血圧を悪化させる大きな原因だったのです。もちろん、自律神経やストレス、遺伝、他のホルモン等、高血圧を悪化させる因子は多いのですが、カルシウムを充分補給すると高血圧が改善する例がたくさんあります。

京都大学名誉教授の岡本耕三先生が日本で初めて育種に成功した自然発症高血圧ラットは、血圧の高いネズミを掛け合わせて人の高血圧と似た状態をつくり出したものです。このネズミは腸からのカルシウムの吸収が悪く、カルシウムが不足しているにもかかわらず、血管壁その他の細胞の中では、かえってカルシウムが増えていることがわかりました。そこで、カルシウムを充分に与えると、高血圧が起こらなくなることがわかりました。高血圧が強く、脳卒中を起こすネズミの系統では、高血圧と骨粗鬆症が併発されていることがわかりました。高血圧はカルシウム・パラドックスのよい例で、この病気を通して謎が解明されようとしているのです。

(1)食事から摂るカルシウムが不足すると、副甲状腺から司令が出て骨をとかして血液中にカルシウムをおぎなおうとする。


(2)骨からのカルシウムは量のコントロールがとれないため、血管の細胞に入り込む。


(3)カルシウムのふえた血管の細胞は固く収縮するので血管がせまくなる。


(4)血管がせまくなった分、心臓は無理をして血液を送り出す力を強くする。その結果血圧が上がる。


プロフィール
藤田拓男(ふじた・たくお)
神戸大学名誉教授、葛城病院名誉院長。
1929年生まれ。東京大学医学部卒業後、52年米国バファロー大学に留学。帰国後、東大、和歌山医大から神戸大学教授を経て、現職。

(Medical Nutrition 35号より)


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