日本人のカルシウムの摂り方
 神戸大学名誉教授・葛城病院名誉院長 藤田拓男

カルシウムが骨を丈夫にするために大切な栄養素だということは誰でも知っていますが、どのくらい摂れば十分かということははっきりと理解されていないようです。体重50kgの人の体内にあるカルシウムは約1kg(1000g=100万mg)で、その99%は骨にあります。こんなにたくさんあるのだから、何も心配しなくても、適当に食べて、時々牛乳でも飲んでいればよいだろうとお考えかもしれません。しかし、そんなにのんびりもしていられないのです。


 骨に蓄えられていたカルシウムの半分以上は失われてしまう

1日の食事に含まれるカルシウムは、国民栄養調査によると約600mgです。戦後の食糧難の時代からみると、少し増えてきましたが、飽食の時代と言われる現代でも、これ以上なかなか増加しません。日本食には乳製品が少ないので、欧米に比べると乳製品の摂取は非常に低く、これ以上カルシウムの摂取量が減ると、国民の多くが健康を維持するうえで、重大な支障を来すと考えられます。そこで、一般の成人のカルシウム所要量は1日600mgと定められているのです。しかし、これはギリギリのラインです。ふつうに生活していて、どうしても体から毎日出ていくカルシウムを何とか補う程度の量です。もし体から出ていく量が食べる量より1日50mg足りないとすると、1カ月では1500mg、1年では18000mg(18g)になります。20歳の人が50歳になるまで、毎年これだけのカルシウムが失われると、合計540gのカルシウムが失われます。体内に「1000gのカルシウムがある」と安心している人は気をつけてください。骨の中に貯えていたカルシウムの半分以上が失われてしまうのです。女性ではちょうど50歳くらいから骨粗鬆症が起こりやすいのはこのためです。カルシウムの少なくなった骨は弱く、折れやすくなります。

 老後に備えて中年以降は1日最低1500mg摂るのが欧米の常識

カルシウムは生命の炎ともいわれ、骨を強くするだけでなく、心臓や脳の働きを保つうえでも必要なものです。血液中のカルシウム濃度は人体の生命線で、これを一定の値に保つために、骨から必要量のカルシウムを必要な分だけ取り出します。ちょうど、家計に必要なお金を銀行から引き出すようなものです。お金と同じように、カルシウムにもどうしてもこれだけは必要というギリギリの線と、健康で文化的な生活を営むために望ましい線があります。現代生活は予期しない出来事もストレスもあり、少しは余裕がないと安心して過ごせません。しかも加齢とともに出費が増え、やりくりが難しくなるように、腸からのカルシウムの吸収は減って、カルシウムの必要量は増加傾向にあると言えます。50歳までに失われたカルシウムを取り戻し、骨粗鬆症を治していかなければなりません。成長期や妊娠授乳期には、1日1000mg以上のカルシウムを摂ったほうがよいのはもちろんですが、老後に備えて中年以降は最低1日1500mgを摂って、骨粗鬆症の進行を防ぐことが欧米を始めとする諸外国では常識になっています。


 実際に不足しやすいカルシウムが唯一、本当に大切なミネラル

厚生労働省でもカルシウム摂取の最大安全量を1日2500mgと決めて、十分なカルシウムの摂取を勧めています。食事として1日800mg摂るとすると、健康食品として1700mg摂っても大丈夫ということになります。カルシウムの摂り過ぎというのは、所要量600mgを超えて800mg摂ると危険というのではなく、最大安全量の2500mgを超える時は注意しましょうという意味です。

また、腎臓結石や血管の石灰化はカルシウムの摂り過ぎが原因といわれていますが、実は、カルシウムの摂り方が足りないのです。骨からカルシウムが出てきて起こることで、カルシウムパラドックスといいます。マグネシウムも大切といわれますが、骨を強くする役割も細胞の働きを調節する作用も、カルシウムの比ではありません。ミネラルをまんべんなく摂ることも結構ですが、実際に不足しやすいカルシウムが唯一、本当に大切なミネラルなのです。


プロフィール
藤田拓男(ふじた・たくお)
神戸大学名誉教授、葛城病院名誉院長。
1929年生まれ。東京大学医学部卒業後、52年米国バファロー大学に留学。帰国後、東大、和歌山医大から神戸大学教授を経て、現職。

(Medical Nutrition 33号より)


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