心療内科の選択ハーブ"SJW"
 コンプライアンスが高い医薬代替食品

 【セント・ジョーンズ・ワート(St.john's wort) 】

厚生省が初めて医薬品との相互作用を公表したハーブとして、医療関係者にもその名が知られつつあるセント・ジョーンズ・ワート(=SJW、和名:セイヨウオトギリソウ)――。相互作用の公開によってネガティブ情報が強調されがちだが、適正な利用法によりその有用性を証明する症例が数多く得られている。抗うつ薬の医薬代替食品として国内でも利用され始めたSJWの実用性を紹介する。


 自律神経障害や抑うつなどに数多くの臨床報告

SJWはドイツ保健省のコミッションE(現BfArM)によって承認されたハーブの一つ。ヨーロッパから中央アジア一帯に生育する多年性植物で、学名はHeparicum perforatum L.、和名はセイヨウオトギリソウと言う。薬用部位には、開花時の地上部が用いられ、抗うつ作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用などが知られている。特に抗うつ作用についての研究が数多く報告されており、96年にBritish Medical Journalに23の臨床報告を総括した論文が掲載されたことによって、世界的な関心を集めた。

コミッションEは用法として、自律神経障害、抑うつ状態、不安および神経性の不安に、油溶性SJW剤を消化不良性の症状への内服、さらに外用として急性で打撲性の損傷、筋痛症、一次性の火傷――を示している。

SJWは、カテキンやエピカテキン、ロイコシアニジンなどのタンニンやプロアントシアニジンを6.5〜15%、ヒペロサイドやルチン、ケルセチン、イソケルセチン、ケンフェロールなどのフラボノイドを2〜5%、ヒペリシン(hypericin)やpseudohypericinなどのジアストロンを0.05〜0.15%、ステロール、ビタミンC、Aを含有する。ヒペリシンはSJW製品の規格成分となっており、84年のモノグラフでは総ヒペリシン量0.2〜1mgを1日平均の用量として示した。その後ドイツでは、98年にアルコール抽出エキスパウダーとして300mgを1日3回、または同エキス液で2mlを1日2回とした。

 セロトニン濃度を上げるのが抗うつ作用のメカニズムか

SJWの抗うつ作用のメカニズムについては、ヒペリシンによるモノアミン分解阻害(MAO、COMT阻害)が推察されていたが、近年はセロトニンの再取り込み阻害などによりセロトニン濃度を上げるという説が有力だ。動物実験では、脳内神経終末でのセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのモノアミン濃度上昇が報告されている。活性成分についても諸説があり、ヒペリフォリンとするものやアメントフラボンがγ−アミノ酪酸(GABA)受容体を阻害するという報告が見られる。

一方、5月10日付けで厚生省が公表したSJWの医薬品との相互作用情報では、「SJW含有製品を摂取することにより薬物代謝酵素であるチトクロームP450、特にサブタイプであるCYP3A4及びCYP1A2が誘導されることが知られている」と記載されている。


 メンタルケアの切り札としての期待が高い

日本では、98年のハーブ規制緩和によって、輸入販売及び国内での製造販売が可能となった。治療に応用する臨床医もいる。主に心療内科では、薬物治療を嫌う患者に対して、抗うつ薬などの医薬品を補完、あるいは代替的に利用されている。

世界各地で公表された相互作用情報ではインジナビル、ジゴキシン、シクロスポリン、テオフィリン、ワルファリン、経口避妊薬の効果の減弱が指摘された。早々にCYP3A4との相互作用について検討した米国NIHのDr.A.H.Bursteinは、「内科医は患者がSJWを摂取しているかどうかを尋ねるべきである」としている。

現時点では、抗うつ薬、向精神薬に対する相互作用は報告されていない。食・薬歴管理を行った上での利用は、メンタルケアが求められる医療行為のなかで、依然切り札として期待が高い。


■副作用・相互作用情報

SJWの相互作用情報が世界中を駆け抜けたのは今年2月。それ以前、SJWの相互作用は、コミッションEをはじめとするメディカルハーブの研究論文は一様に"None known"とされ、また安全性の高いハーブとして評価されてきた。副作用としては古くからウシなどで光過敏症が知られており、ヒトにおいても1例だけ大量摂取に伴う光過敏症が報告されている。通常の推奨用量(1日900mg)をおおよそ30〜50回の連用でひどい光感作を引き起こすとの報告がある。

厚生省が5月10日に公表した相互作用情報は、抗HIV薬のインジナビル、強心薬ジゴキシン、免疫抑制薬シクロスポリン、気管支拡張薬のテオフィリン、血液凝固防止薬ワルファリン、経口避妊薬――(本紙5月1日既報、厚生省HPのhttp://www.mhw.go.jp参照)。

インジナビルは、SJW含有製品との併用で血中濃度が低下することがHIVによって報告された。18歳以上の健常者8人を対象にインジナビル投与3日目からSJW抽出物を1日900mgを併用した結果、SJW摂取2週間後のインジナビル濃度は非併用時と比べ平均43%(AUC(0〜8))などとなった。ドイツの研究でジゴキシンは、SJW摂取後10日後には血中濃度が平均25%(AUC(0〜24))低下した。シクロスポリンはスイスの臨床例で2件の血中濃度低下が確認されている。いずれもSJW摂取中止後に血中濃度は回復している。

一方、SJWはHIVウイルスなどレトロウイルスの増殖を抑制するとの報告があり、米国では、HIV感染者を対象とした製品も販売されていたため、今回の情報公開は大きな衝撃となった。2月の報道を皮切りに、その後も相互作用が懸念される医薬品が各国で追加公表されている。イギリスでは、片頭痛薬についての記載が追加されており、またCYP3A4及びCYP1A2だけでなく、P−グルコプロテイン、CYP2C9を誘導する医薬品も列挙した。

厚生省では製薬会社に対して、該当医薬品の添付文書に「本剤投与時はSJW含有食品を摂取しないよう注意する」旨の記載を、また医師、薬剤師などの医療関係者に対する情報提供を指示した。さらに都道府県や各検疫所、製薬協の関連団体に通知した。

●関係者の声

相互作用公表を受け、国内のSJWメーカーはどう対応したのか。(株)皇漢薬品研究所の薬剤師・早川明夫氏に聞いた。

「通信販売でSJW製品を扱う当社には、病医院薬剤部から4件の問合せがありました。SJWがどういったもので、どこで販売され、どういう使われ方をしているかという質問から、成分やその含有量、生理活性作用、ヒペリフォリンで規格しているか――などの質問があり、内部で勉強会を開くという医院もありました」。同社では問合せに応対すると同時に、イギリスのCommitteeon Safety of Medicenesが公開する相互作用情報の和訳を送付したり、注意喚起用に自社製品の写真等を提供したという。

<臨床試験>

SJWに関する臨床試験は、国内でも実施されている。国立大阪外語大学保健管理センターの梶本修身医博は、更年期・初老期を対象とした不眠・抑うつ、自律神経障害に対するSJWの投与試験を実施し、「プラセボ効果の発現率(50%)を考慮するとこの結果のみで優れているとは言えない」としながらも、抑うつ、不眠、イライラなどの更年期・初老期の症状に有効性を見出した。

試験対象は、更年期障害及び自律神経障害で心療内科、精神神経科を受診した49.2±10.9歳の患者25人(女性20人)で、不投薬の初診患者。1粒中ヒペリシン0.23mgのSJW粒剤を1日9粒(ヒペリシン量2.1 mg)、8週間投与した。これをkupperman更年期指数評価尺度で評価した。その結果、「著名改善」に「改善」を加えた改善率は、全身倦怠感が68%、憂うつ気分66%、イライラ度68%、不眠・睡眠障害68%となった(図参照)。なお1症例に生理遅延と嘔気、1例に日中の眠気が見られた。

海外の研究では1996年に、British Medical Journalに掲載された論文で、総被験者数1757人に及ぶ23の二重盲検試験の検討が行われている。プラセボを用いた15の試験及びImipramine、Amitriptylineなどの抗うつ剤や鎮静剤と比較した8試験を評価した結果、SJWは軽度から中程度のうつ症状の治療に改善効果を示している。効果が見られた患者の割合はプラセボを用いた二重盲験で、プラセボが22.3%、SJWが55.1%となった。また既存の抗うつ剤との比較では、抗うつ剤58.5%に対し、SJWは63.9%に症状の改善が見られた。

●大阪外大保健管理センター 梶本修身医師の話

こうした更年期・初老期の抑うつ、不眠、イライラなどの症状を対象とした試験ではプラセボ効果の発現率が50%を超えるとも言われており、プラセボを対照とした二重盲検で追試を行うべきだろう。

SJWに相互作用が報告された併用薬は多岐にわたっている。いずれも血中濃度が低下してしまい、薬物効果が十分に得られないことが考えられる。医薬品を併用中の者あるいは併用する可能性のある者は使用すべきではない。ハーブはSJWに限らず、化学合成薬同様に強い薬理作用を有するものが多く、効果が期待できる反面、副作用の発現頻度も高い。十分な知識なく利用することはむしろ危険だ。メーカーは正確な情報を与えて注意喚起した上で購入意思を確認すべきであり、副作用・相互作用報告を知りつつ販売した結果、万一にも異常が生じた場合は過失責任が生じることを認識してもらいたい。

(Medical Nutrition 18号より)


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