前立腺肥大の「対症ハーブ療法」高齢化時代に“ノコギリヤシ” 【ノコギリヤシ(SAW PALMETTO) 】
新薬など化学製剤と違って、緩和ながらも幅広い適用範囲を持つメディカルハーブだが、特定の疾患に対症療法的に利用されているものも多く存在する。その一つであるノコギリヤシ(Saw Palmetto)は、特に前立腺肥大に対して利用され続けている。今回は、日本でも密かなブームとなっている“ノコギリヤシ”の有用性を紹介する。
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欧州ではポピュラーな存在 |
数多くのメディカルハーブと同様に、ノコギリヤシもヨーロッパでは医薬品として流通している。日本では、薬局薬店などで健康食品として入手することができ、一部の相談薬局では居並ぶ健康食品のなかにあって、売れ筋上位商品に君臨している。
ノコギリヤシは、フロリダ半島など北アメリカ大陸の南東部に自生するヤシ科シュロ属の低木で、その果実は現地先住民族にとって主要な食物であり、また民間薬として伝承されてきた。メディカルハーブとして利用されているノコギリヤシの学名はSerenoa repensだが、このほかにもノコギリヤシと呼ばれるSabal serrulata、Serenoa serralataがある。
伝統的な利用法では、男性の全般的な強壮、利尿、鎮静などが期待されており、20世紀の初頭から半ばにかけては、米国ナショナル・フォーミュラのリストにも記載され、前立腺肥大の治療薬として利用されていた。60年代にはヨーロッパに持ち出され、米国での利用実績をもとに研究が重ねられた。その結果、フランスやイタリア、ベルギー、ハンガリー、イギリスなどで、良性前立腺肥大(BPH)の治療薬として広く利用されるようになっている。
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ジヒドロテストステロンを阻害 |
前立腺肥大は、精巣で作られるテストステロンの産出量が加齢とともに減少する反面、前立腺が積極的にテストステロンを取り込むことによって生じる。テストステロンが前立腺に取り込まれると、還元酵素の5α-リダクターゼによってジヒドロテストステロン(DHT)に変化し、これが生成過剰になることで前立腺の肥大を招く。
ノコギリヤシの体内でのメカニズムは現在のところ明確ではないが、ノコギリヤシ中のオクタコサノールやステロールといった脂溶成分が、テストステロンの取り込みを抑制するとともに、前立腺細胞内でテストステロンをジヒドロテストステロンに変化させる5α-リダクターゼを阻害、さらに肥大による炎症を抑えるとの考察が有力だ(図参照)。
またこの阻害様式は、化学合成の5α-リダクターゼ阻害剤と異なり、ノコギリヤシの脂溶成分が5α-リダクターゼの構造に変化を与えるのではないかとの予測もある。
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急増が予測される前立腺肥大患者 |
米国医師会誌JAMAは98年11月、良性前立腺肥大の治療に対するノコギリヤシの有用性について文献分析を掲載した。18のRCT(ランダム・コントロール・トライアル)で評価された2939名の臨床試験を分析し、「ノコギリヤシの治療効果に関する研究は短期間の試験であったり、評価系がまちまちだが、エビデンスはノコギリヤシが泌尿器学的症状や尿流量を改善することを示している。合成薬と比べても、同様の改善が見られる。さらに長期的な効果や予防に関する調査が求められる」としている。
日本では現在、急速に高齢化が進んでおり、それに伴って前立腺肥大症も増加している。慈恵医大病院の病理解剖調査によると前立腺肥大症は、40代で52.5%、60代64.3%、70代69.3%、80代74.1%と見られる。その一方で、前立腺肥大症と診断される患者は40〜50代で1〜2%、60代9%、70代12%だという。
前立腺肥大症の急増に対する一つの医療手段として、欧米ではノコギリヤシを使ったハーブ療法が盛んに行われている。特に、泌尿器科医師の50%が化学合成剤よりも植物性製剤を好んで処方するといわれるドイツでは、前立腺肥大に対するファーストチョイスの医薬品となっており、ほかの植物性製剤や化学合成剤のなかにあってノコギリヤシが最も多く処方されている。日本での普及に期待がかかる。
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■ノコギリヤシの臨床評価
ノコギリヤシではすでに2000例を超える臨床試験が実施されており、そのいずれもが有用性を評価している。前立腺肥大患者を対象とした臨床評価の一部を紹介する。
- 110名の前立腺肥大患者を対象に1日320mgのノコギリヤシ抽出物を4週間投与した結果、排尿時の痛みの減少や、夜間の排尿回数、膀胱の残尿量の減少などが見られ、特に尿流速の増加が顕著に見られた。さらに15〜30ヵ月の継続投与によってよりよい効果が認められた。
- 3ヵ月間、ノコギリヤシ抽出物で治療した前立腺肥大患者の前立腺組織におけるジヒドロステロン(DHT)の減少及びテストステロンの増加が見られた。
- 90日間、複数施設による305名を対象とした試験で、88%の患者に尿流速の増加、前立腺サイズの縮小などの効果が見られた。
- 42名に対する12ヵ月間の試験では、残尿量、平均尿流速、最高尿流速などの項目で、6ヵ月以内に明らかな効果が得られ、さらに治療中の副作用は見られなかった。
- 38名に12ヵ月間、ノコギリヤシ抽出物を投与した試験では、約4分の3の症例で患者の自覚症状が軽減され、副作用は見られなかった。最高尿流速は10.36ml/sから14.44ml/sとなり、中間尿流速も6.02ml/sから7.45ml/sに増加した。さらに90%以上の症例で尿が出始めるまでの時間が短縮または消失した。
- 1334名の前立腺肥大症患者を対象に、12週間にわたりノコギリヤシ抽出物を投与した結果、残尿感が37%に減少、夜間排尿は54%に減少した。排尿困難の訴えは試験前の75%から37%に減少した。
- 49〜81歳の第1期、第2期の前立腺肥大症患者27名を対象に160mgを1日2回投与した結果、42.9%に効果が認められ、さらに血圧、脈拍、臨床的評価も良好となった。
■副作用・相互作用情報
ノコギリヤシの安全性は高くコミッションEモノグラフでは、ステージ1、2にある良性前立腺肥大(BPH)による排尿障害への適用を認めている。1日当たりの摂取量は、果実1〜2gまたはヘキサンかアルコールを溶媒とした抽出物320mgとされている。
コミッションEモノグラフによると、ノコギリヤシの副作用として「まれに胃障害」とあり、他の薬剤との相互作用は報告がないことから、「知られていない」と記載されている。
近年、米国ではノコギリヤシを用いた前立腺肥大に対する臨床試験がしばしば行われている。多くの場合、Finasteride、Permixon、Proscarなどの5α-リダクターゼ阻害剤を陽性対照薬としたもので、これらの試験ではいずれもノコギリヤシの有用性が認められている。
こうした臨床試験において、ある程度の副作用(胃腸障害、乳房部位の圧痛、性欲低下など)の発現が報告されている。しかし、こうした副作用は、対照薬よりも弱い。主にノコギリヤシの服用で見られる副作用は、胃腸障害であるとされている。
これまでの報告では、薬物との相互作用に関する記述はほとんど見られない。しかしノコギリヤシの作用が5α-リダクターゼ阻害作用、ジヒドロテストステロン受容体への拮抗作用などであり、エストロゲン作用を有することから、これらのホルモン作用と関係する治療の場合には、相互作用の有無について論理的な考慮が必要と考えられている。また、相互作用とは直接関係はないものの、ノコギリヤシの臨床効果が自他覚的な臨床症状に限られ、前立腺肥大を縮小する効果はないとされているので、この点を配慮する必要がある。全米ハーブ製品協会(AHPA)の“Botanical Safety Handbook”では、ノコギリヤシを「Class1(適切に用いれば安全)」に分類しているが、使用に際しては医師に相談することを勧めている。
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(Medical Nutrition 17号より)
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