「五臓を補う」東洋の霊薬。予防に役立つ多様性と穏和な作用 【ジンセン(高麗人参)】
和漢医学の黎明期から、珍重され続けるジンセン(Ginseng=高麗人参)――。今回は、生薬として日本薬局方にも収載され、日本人に最も馴染み深いハーブ“ジンセン”を取り上げる。二千年の歴史を持つジンセンの最新研究データを紹介するとともに、メディカルユースとして新たな利用方法を提案する。
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最も普及したBRM様生薬 |
和漢医学の黎明期から、珍重され続けるジンセン(Ginseng=高麗人参)――。今回は、生薬として日本薬局方にも収載され、日本人に最も馴染み深いハーブ“ジンセン”を取り上げる。二千年の歴史を持つジンセンの最新研究データを紹介するとともに、メディカルユースとして新たな利用方法を提案する。
和漢薬史のなかで、ジンセンが最初に登場するのは、1〜2世紀頃に中国で編纂された本草書「神農本草経」だ。いうまでもなく中国最古の本草書に、ジンセンは上薬に分類され、「味甘く、微寒、五臓を補い、精神を安んじ、魂魄を定め、驚悸を止め、邪気を除き、目を明らかに……(略)」と記載されている。ジンセンの特徴である「五臓を補う」とは、生命力や正気といった全身の機能を整えることを意味し、西洋医学でいうところのBRM(Biological Response Modifier)様作用を指す。今日確認されているような免疫調整作用や精神安定作用、微小循環改善作用、消化機能調整作用など薬理作用が、当時からほぼ的確に捉えられていたことが分かる。
ジンセンはウコギ科の多年草オタネニンジン(学名:Panax ginseng C.A.Mayer)の根茎で、日本には奈良時代の739年に渤海国の使者により進上品として持ち込まれた。今日の日本薬局方ではコウジン(紅参)、ハクジン(白参)が記載されている。紅参も白参も同じ植物の根茎だが、その調整方法は異なり、紅参は皮付きを蒸して乾燥させるが、白参は表皮を剥ぎ取って乾燥させて作られる。見た目も紅参はその名が示すように赤褐色で、一方の白参は黄淡色、淡褐色に仕上げられている。どちらも医療用薬やOTC薬として利用されているほか健康食品などにも広く利用されている。
ジンセンの主要成分は、ジンセノサイド(ginsenoside)と呼ばれるサポニンで、総サポニン含有量は栽培年数とともに増え、一般的に4〜6年栽培のものが珍重されている。
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30種以上の豊富なサポニン“ジンセノサイド群” |
ジンセノサイドについては、分離精製技術の進化も手伝って、すでに30種以上のサポニンがジンセンから見出されている。また紅参と白参とでは、その調整方法の違いによって成分的な差異が見られ、共通する多くのジンセノサイドに加え、それぞれ特有のジンセノサイドが含まれている(表1参照)。
近年、個々の成分に関する研究が盛んに行われており、一般にジンセノサイドRb系のものは中枢鎮静的に作用し、Rg系は興奮的に作用することが動物実験などで示されている。薬理研究が進んでいる代表的な成分としてRb1とRg1 がある。
Rb1だけでも、向神経作用、攻撃的行動抑制作用、中枢性摂食抑制作用、インスリン様作用(ACTHによる脂肪分解抑制)、ACTH・コルチコステロン分泌促進作用、総コレステロール・中性脂肪・遊離脂肪酸の低下、HDL−コレステロールの増加、コレステロール合成促進作用、神経繊維形成促進作用、蛋白合成促進作用、RNAポリメラーゼ活性促進作用、貪食活性、抗体産生促進作用、メサンギウム細胞増殖抑制作用、血管拡張作用、線溶活性化作用――が確認されている。
一方のRb1についても、抗ストレス作用、有糸分裂促進作用、骨髄細胞・DNA・RNA・蛋白・脂質合成促進作用、免疫調節作用、血管拡張作用、血小板凝集抑制作用、線溶活性化作用が知られている。
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特性を活かし、予防的な利用に |
臨床でのジンセンの適用は、漢方薬の補剤としての使われ方まで含むと、無数の症例がある。しかし、多施設に及ぶ客観性の高い臨床試験となると数が少ない。それは、ジンセンの作用が多岐に及び、また効果がマイルドなことから、臨床試験のデザインが立てにくいためと指摘されている。
代表的な臨床試験としては、日生病院の山本昌弘院長による、67例の高脂血症患者の試験が知られている。紅参末(正官庄)2.7g/日を最高で2年間投与した結果、血中総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、動脈硬化指数などの推計学的な改善が確認された。また高血圧、正常血圧、低血圧の316例を対象とした試験では、高血圧者の2分の1に血圧低下が見られ、ほかはほとんど不変。正常血圧者では95%が不変。低血圧者では3分の1に血圧上昇が見られ、ほかはほとんど不変という結果が出されている。また山本氏の研究では動脈硬化疾患患者に対する様々な不定愁訴の改善が報告されている(表2参照)。とはいえ、化学製剤のような著しい効果や速効性はなく、むしろ穏やかに身体機能を改善することから、予防的な利用法に関心が高まりつつある。
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― 相互作用情報 ―
サポニンやステロールなど数多くの物質を含有するジンセンは、その薬理作用も幅広い。サプリメントとしては通常0.6〜3.0gの粉末を1日1〜3回に分けて摂取する。妊娠中・授乳中の女性については、安全性が立証されていないことから服用すべきではないとされているほかは、上記の用量の範囲では一般的に安全性は高いと考えられている。 ドイツのE委員会(コミッションE)でも、問題点は挙げられていない(1991年)。しかしフェネルジン(抗うつ薬)との相互作用が疑われるケースが2つ報告されている。ジンセンは様々な神経伝達物質の取り込みを阻害する作用があり、MAO(モノアミンオキシターゼ)阻害薬の作用を増強する可能性がある。ジンセンの使用を注意すべき状況として、心疾患、糖尿病、低・高血圧など血圧異常、ステロイドホルモン治療――を挙げる専門家もいる。 一方、米国ハーブ製品協会の「ボタニカル・セイフティ・ハンドブック」には使用禁忌として高血圧症が挙げられており、さらに過剰摂取や長期使用による副作用が述べられている。また紅参に関しては、カフェインやその他のステミュラントの作用を増強する可能性があることも示されている。 米国では、成人の18%が処方薬とともにハーブやビタミンの製品を利用しているという報告もあり、相互作用への関心が高まりつつある。ジンセンについてはワルファリン(血液凝固阻害剤)と併用した場合、その効果を減弱する可能性があるとの症例報告がある。しかし、ラットによる試験では、その相互作用は証明されなかった。 |
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(Medical Nutrition 15号より)
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