全身予備加温でHSP産生を促進、 体内を浄化し、 疲労物質が増えにくい体を作る。
 不二越病院

 田澤賢次氏は富山医科薬科大学 (現富山大)教授時代、 ソルトレーク冬季オリンピック大会のクロスカントリーチーム・帯同ドクターとして2年間選手強化に携わった。 同氏は独自のトレーニング法を導入し、 クロカンチーム史上最高の成績を収めることに貢献した。 それは体を温めることで生体が誘導するメカニズムを有効利用したものだった。


 競争力を挙げる遠赤外線照射装置によるトレーニング法。

「今回は選手を応援するためトリノに行き、 おととい帰ってきました。 前回と違って自費旅行ですから、 ホテル代は1泊7万円もかかるし、競技場には3時間かけて毎日通わなくてはならず、 検閲まで受けていろいろと大変でした。 それでもずっと一緒にトレーニングしてきた選手たちのことはやはり気になりますからね。 ついトリノ現地まで足を運び、 彼らを激励したくなるんです」

青森県出身の田澤氏は幼少時からスキーに親しみ、学生時代はアルペン選手、富山医薬大教授時代は富山県スキー連盟副会長を務めるなどスキーに生涯関わってきた。 スキーへの思い入れは非常に強い。

「2000年の富山国体冬季スキー大会の懇親会で当時JOC会長だった故八木祐四郎氏と話す機会を得ました。 そのとき、 私は独自のトレーニング方法を富山県の代表選手たちに導入して好成績を上げていましたから、 八木氏にそのことを伝えました。 その後試してみて"これはいい"となり、 クロカンチームの強化に協力してほしいという要請を受けました」。

田澤氏の言うトレーニング法とは何か。 競技前に選手の体を遠赤外線照射装置であらかじめ加温することで、 HSPを誘導し、 乳酸、 アセト酢酸、 3ヒドロキシ酢酸、 総ケトン体などの血中疲労物質が増えにくい体にして、 持久力を高め、 競争力を上げていこうというものだ。


 サウナよりは温浴。汗で活性酸素を出すしくみ。 

「きっかけは、 1999年の補完代替医療学会の会場でした。 当時学会員だった私は(株)フジカ社のブースに立ち寄り、 ビーカーに入った汗をみつけました。 この汗は同社が開発した遠赤外線が照射される温浴装置 (製品名スマーティ) に入った人から1991年に採取したもので、 8年たっても常温で腐らないというのです。 そのとき、 この汗には活性酸素が含まれているのではないかとひらめいたのです。 その場で大野日佐太社長から汗を少し分けてもらい、 分析したところ、 やはり活性酸素が出ており、 これが細菌を殺す役割を果たしていたわけです。 以来、 どうしたら活性酸素を排出できるかということを調べ、 その結果、 37〜38℃のお湯に30分から1時間かけて入ると活性酸素の含まれた汗が多く出てくることもわかりました。 乾式サウナでは活性酸素はほとんど出ませんでした。 というのも100℃近いサウナで表面だけ皮膚を熱くしてもエクリン汗腺から水分や塩でできた汗しか出てきません。 対して遠赤外線照射装置や温浴で40℃前後の熱でじっくり温めると、 皮脂腺から脂肪成分や脂肪酸、 アポクリン汗腺からも鉛、 砒素などの有害金属が含まれた汗となって排出されやすいことがわかったのです。 また、 高脂血症患者に遠赤外線装置を用いた臨床試験でも面白いことがわかりました。 患者さんから出る汗は高脂血症だけに脂肪の多い汗が出ると思っていたのですが、 健常者の汗に比べてずっときれいな汗が出てくるのです。 でも、 よく考えると、 高脂血症患者さんは汚いものを外に出せない体になっている。 健常者は外に出せるから体内に汚いものが少ないという病態生理学的に見て理に適った話であるわけです。 まさに今流行りのデトックスですね。


 予備加温のメカニズムをアスリートに応用。 

さらにこの体調管理法をより科学的なものへと進展させる契機となったのが愛知医科大の伊藤要子先生が提唱していたHSP (熱ショックタンパク=ストレスタンパク) を利用した予備加温の理論でした。 伊藤先生は、 日本ハイパーサーミア学会で40〜41℃に加温して、 HSPを多く産生させたラットはストレス耐性や運動能力の向上を示すという発表をしており、 術後の感染症や合併症を抑制するなどヒト臨床における可能性についても言及されていました。 それが頭にあって私は予備加温のメカニズムをアスリートに応用すれば、 パフォーマンス向上が可能だと考えたわけです。 そこで伊藤先生の協力を仰ぎ、 国士館大のスキー距離競技選手10名をモニターにしてHSPを利用した全身予備加温の有効性検証を10日間の富山合宿で行いました。

加温群 (5名) には41〜42℃に設定した遠赤外線照射装置にうつ伏せ20分、 あお向け20分、 計40分入ってもらい、 リンパ球内のHSP産生を見たところ、 加温48時間後、 96時間後でそれぞれ非加温群 (5名) に比べ平均2.64倍、 平均2.07倍と増加しました。 次にランニング機器を用いて、 予備加温群と非予備加温群の血中乳酸値を比較したところ、 予備加温群は有意に乳酸の産生量を抑えていることがわかりました。 さらにオールアウト (これ以上運動ができない状態) に達する時間を伸ばすこともできました。

こうしたEBMをもとに2年間、チーム合宿や大会に帯同して、 選手のトレーニングや食事に入り込み、 細かく選手の体調管理を行いました。 その甲斐あってかソルトレーク大会では50kmクラシカルで今井博幸選手が6位と日本人個人初入賞を果たし、 他の選手も総じて前回を上回る好成績を収めることができました」。

今回のトリノ五輪では競技系種目で日本はさんざんな成績に終わったが、 この点についても田澤氏は言及する。

「今回は本部に救急ドクターを数人置く程度で、 各チーム年間通じて強化に関わってきたスポーツドクターは皆忙しくてほとんど参加できない状況でした。 今後、 スポーツドクターの育成を含め、 メディカル面での競技力向上サポート体制は大いに見直すべきだと思いますね」。


プロフィール
 田澤 賢次 (たざわ・けんじ)
1940年生まれ。 新潟大学医学部卒、 新潟大学附属病院、 富山医科薬科大勤務を経て、 1995年富山医科薬科大学医学部成人看護学科教授に就任。 2005年定年退官。 現在は富山医薬大名誉教授、 不二越病院顧問として勤務する他、 JOC強化スタッフ委員、 日本アーユルヴェーダ学会理事長、 富山県スポーツ医・科学的トレーニング推進委員会委員長。

(Medical Nutrition 84号より)


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