「温泉療法」は慢性疾患に有効。 作用効果は転地、泉質、水圧、温熱。 帝国ホテルインペリアルタワー内幸町診療所
温泉療法は歴史を遡れば湯治に行き着く我が国の伝統療法の一つ。現代でも温泉を利用した保健事業を行った市町村では医療費が下がった例もあるという。また、進行がん患者が最後の望みを掛けて、訪れる温泉地もある。果たして、温泉は疾病治療に役立つのか。そして温泉療法とはどんなものなのか。日本温泉気候物理学会会長を長年勤め、同学会認定の日本温泉療法医会顧問でもある内幸町診療所の植田理彦医師に温泉療法の実際を聞いた。
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半世紀以上にわたり温泉療法を実践し、臨床例数も多数。 |
植田氏が温泉療法に出会ったのは昭和26(1951)年、東京大学医学部内科物理療法学教室に入局してから。当時、この医局が水治療法を研究していたことが温泉に興味を持ったきっかけだった。翌27年には栃木県・塩原温泉にあった温泉病院で臨床をスタート。以来、半世紀以上にわたり温泉療法を実践し、研究を進めている。臨床例数は数え切れないという。
「温泉療法は糖尿病、痛風、リウマチなど慢性疾患には有効といえますが、急性疾患には効果はないばかりか、害がある場合があります。慢性疾病についても、進行中や重症の場合は禁忌症です。温泉療法を行うには日本温泉気候物理学会が認定する温泉療法医の指導の元に行うのがよいでしょう」
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転地でストレス解消に、疾病の予防にも。 |
温泉療法の作用機序には(1)気候刺激(2)泉質(3)温度(4)浮力(5)水圧―などが挙げられる。なかでも最も大きな効果を示すのは気候刺激、いわゆる転地効果だ。「温泉地は概ね、自然が豊富で独特の文化を持っていますから、心身に良い刺激が与えられます。言うならば、いま盛んに言われている『癒し』の効果ですね」。ストレスが解消されることで疾病予防にもなるという。
しかし、温泉であれば、どこでも同じ効果があるわけではない。例えば、海辺は概して気圧が高く、交感神経が優位に働く。逆に、山間部は高地のため気圧が低いことで副交感神経が活性化し、痛みの緩和が図られる。つまり、慢性化したリウマチ、関節痛などの治療に適しているのだ。また、山間部では樹木が多いためアロマテラピー効果も期待できる。
一方、海辺の空気にも海水から溶け込んだカルシウムやヨウ素が含まれており、これらの物質が呼気や皮膚を通して吸収される。ここではタラソテラピー(海洋療法)効果があるという。
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医療効果がある9つの泉質、患者の状態を考慮した入浴法。 |
温泉の泉質。温泉水に含まれる化学成分は泉源によって異なるが、その中でも医療効果が認められるものを療養泉と言い、(1)単純温泉(2)単純二酸化炭素泉(単純炭酸泉)(3)炭酸水素泉(重炭素土類泉、重曹泉)(4)塩化物泉(食塩泉)(5)硫黄塩泉(6)含鉄泉(鉄泉)(7)硫黄泉(8)酸性泉(明礬泉)(9)放射能泉―の9つに分類している。
それぞれの泉質によって薬理効果は異なっている。例えば、塩化物泉は筋・関節痛、打撲、捻挫、冷え性、慢性婦人病などに。硫黄泉は高血圧、動脈硬化、慢性皮膚炎、関節痛など―といった具合だ。さらに入浴や飲泉など利用の仕方次第でも効果は違ってくる。
湯が身体に与える水圧、温熱など物理効果も重要な作用の一つ。お湯の中で身体は静水圧によって数cm単位で圧縮される。これがマッサージ効果を生み、血行促進や足の疲れやむくみを取り除く効果がある。この効果で肝臓、脾臓の機能も向上されるという。
水温によっても温泉療法の効果は変わる。摂氏42度以上の熱い湯では交感神経が刺激され身体が興奮状態になるが、38〜40度ほどのぬるい湯は副交感神経を刺激しリラックスした状態になる。
温泉療法による治療は、患者の状態を考慮したうえで、これまで述べてきた作用、さまざまな入浴方法を組み合わせて行われる。
例えば、高血圧の患者。まず、利用する温泉地は標高300〜500mの山間部で樹林に囲まれたところ。泉質は単純二酸化炭素泉。湯温は39度プラスマイナス1度。入浴は1日3回まで。65歳以上の高齢者になると2回までとなる。「せっかく温泉に来たのだから」と言って何度も入浴するのはかえって身体に良くないという。
入浴時には浮いた姿勢で半身浴。額が汗ばんできたら出て水分を補給する。期間は4日間が目安。ここで気をつけてほしいのは入浴するだけではなく、積極的に温泉の周囲を散歩するなどして気分転換を図ることだ。
温泉地は都市部からは遠隔地にあることが多く、それが前述の転地効果の所以になるのだが、植田氏は「自宅の風呂でも温泉浴と同じような効果が期待できる」と話す。転地効果はないものの水圧、温熱は同じ効果が期待できる。また、温泉地名を冠した入浴剤が市販されているが、これらは成分がその地の温泉水と同じになっており、同様の薬理効果が期待できるという。
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今後の研究に期待。 |
さて、温泉療法はがん治療に有効なのか。この問いに植田氏は「温泉療法はあくまで代替医療の一つ。そしてがんは禁忌症です。しかし、今後研究が進めば適した療法が確立されるかもしれませんね」と答えた。
プロフィール
植田理彦(うえだ みちひこ) 昭和2年生まれ。昭和25年、東京大学医学部卒。医学部内科物理療法学教室で水治療法に出会い、その後温泉療法の実践、研究を進める。日本健康開発財団顧問。日本温泉気候物理医学会前会長。日本温泉療法医会顧問。帝国ホテルインペリアルタワー内幸町診療所所長。医学博士 |
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(Medical Nutrition 49号より)
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