漢方と日本古来の食事法で自律的治癒に導く
 重野哲寛診療所

「温故知新−古きを温めて新しきを知る」。重野哲寛診療所(東京都渋谷区)では、中国古代の薬学書『神農本草経』に記されている食物を用いた食事法を指導し、がんや肝疾患などに高い治療効果をあげている。具体的には、鹿角霊芝や三七人参など30数種類の漢方素材からなる「積極的食事法」と、ご飯に焼き魚、味噌汁といった日本古来の食事を結合させたものだ。現代医学と食事法を統合させた治療法について、重野哲寛院長に話を聞いた。


 『神農本草経』は医食同源の原点

もともと、重野氏は北海道大学で、がん・ホルモン・酵素の研究グループに所属しており、長年免疫について研究してきたという。当時のがん治療は手術と放射線療法が主であり、生体はがん治療によるダメージを免れることができなかった。「自己治癒力をつけることが大事だと気づきました。そこで、視野に入ったのが漢方です。『神農本草経』を学び、現代医学と統合する医療をめざし始めました」と重野氏は述懐する。『神農本草経』とは約2000年前に中国で書かれた「医食同源」の原点といえる書物で、世界最古の薬学書ともいえる。『神農本草経』では、体の機能を調節する食物を「上品(じょうほん)」「中品(ちゅうほん)」「下品(げほん)」の3つに区分している。上品は長期間食べ続けると体に良い作用を及ぼすもの、中品は病気を予防するもの、下品は病気を治すために用いられるものだ。重野氏は上品を中心に365種類の食品の高い機能性に注目し、治療に用いている。

 5つの機能を高める食事法と「ゆらぎの医学」

「生体は、免疫系、代謝系、神経系、内分泌系、血管系の5つのネットワークからなり、これらの連鎖によって人間は健康を保ちます。5つの機能がバランスよく調節されて、初めて健康といえます。かつて免疫の研究をしていた時に、免疫系だけを上げるのではダメだと気づきました。例えば、免疫を高めるためにインターフェロンを使うと、神経系が抑制されうつ病になったり、血管系では白血球や血小板が減少したりします。つまり、一つの機能しか見ていないと、他がダメージを受けるのです。『神農本草経』と現代医学を統合した治療法により、5つのネットワークの調節能力を高いレベルに誘導し、様々な病気を自律的治癒に導くことができます」と重野氏は語る。食事によって悪いほうに傾いていた体を良いほうへ動かすので、「積極的食事法」というそうだ。

「私たちの体は、常に調子の良い状態(プラス)と悪い状態(マイナス)の間をゆらいでいます。バランスを保つためには、ゆらぎの振幅が大きくなりすぎないような重りをつけることです」。この重りの役目をするのが、先の5つの機能で、マイナスのゆらぎを吸収し、バランスを保つのだという。


 積極的食事法によるがんや肝疾患の著効例

重野氏によると来院者の約40%はがん患者で、著効例は数百例にも及ぶ。1998年の日本産婦人科栄養・代謝研究会では、腹腔内に多数の転移巣をともなう末期の卵巣がんが約4カ月以内にアポトーシスを起こし、腫瘍がすべて消失した例を報告している。このように末期がんや転移がんにもかかわらず、数カ月の積極的食事法により腫瘍マーカーが劇的に低下した例や腫瘍が消失した例は少なくない。

「手術や化学療法、放射線療法などの措置に先行して、積極的食事法を始めることが重要です。術後の回復や抗がん剤の副作用が格段に違いますし、転移する率も低くなります。これは私の40年にわたる臨床経験からわかってきたことです。もちろん、西洋医学的な治療法をやり尽くした後でも効果は現れますが……」。

また、肝疾患に対しても、優れた効果が示されている。例えば、インターフェロンの使えないC型肝炎患者に積極的食事法を指導したところ、2カ月後にはGOT、GPTの値が正常値まで低下し、自覚症状もなくなったという。その他、腎疾患、自己免疫疾患などに高い治療効果をあげている重野氏だが、最後に「最も優れた医者は病気を治す医者ではなく、予防する医者なのですよ」と、予防医療の重要性を力説した。

プロフィール
重野哲寛(しげの てっかん)
1932年北海道生まれ。北海道大学医学部、大学院卒業。同大学病院助手、診療所講師を経て、67年東京・新宿、82年東京・表参道に重野哲寛診療所を開設。西洋医学と東洋医学、伝統的な日本食を基礎とする独自の食事法を融合させて、がんや生活習慣病の治療にあたる。現在、重野哲寛診療所、重野体質医学研究所所長。医学博士。

(Medical Nutrition 35号より)


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